或る日
外気が一気に流れ込んで来る。
一連の出来事に対してあっけに取られていると、早く行けと言わんばかりに勢い良く扉が閉められた。年代ものなんだ、もっと丁寧に扱え、そう注意したいのを呑み込んで、ギアをローに入れ走りはじめる。
バックミラーに写る兄の姿が徐々に小さくなって行く。そして、50メートル程走った所で再び車を止めた。
とぼとぼと背を丸め、近付いてくる兄をミラーで確認する。兄も自分に気が付いているだろう。暫くして兄が追い付き
「何だよ、俺もどっかのぼっちゃんみたいに、すぐに迷子にでもなると思ってんのかよ?」
と、少し開けた窓から悪態の言葉が飛び込んできた。
「家の前で寝られちゃ、かなわんからな」
それだけ言うと、兄の歩みに合わせてのろのろと走った。
十一月のベルリンの夜風は肌に凍みる様に冷たかった。
もうすぐ、雪が降るだろう。
---------了