約束、ひらり
薄紅色の花弁が咲き誇って、咲き誇って、風に煽られ散っていく
帝人は一人立ち竦み、その光景を青みがかった双眸で見ていた
(これを見れるのも、もう…)
立派な桜の木が立ち並ぶこの景色はそれはもう美しいものであり、本当なら他に人がいてもおかしくない
しかし、ここにいるのは帝人ただ一人だけ
それもそのはず
此処は、帝人と“彼”の秘密の場所であるからだ
ぶわっと風が一際強く吹抜け、花弁が視界を霞ませた
反射的に眼を瞑ると、風が、花弁が頬を掠める感触を一層強く感じる
風が弱まり、そろそろと眼を開けた時、
柔らかい光と薄紅で色付く視界に映える、金色と漆黒が、見えた
帝人は驚きで眼を瞠ったが、直ぐにそれは哀しげな笑みに変わる
相手が誰だか、違える筈が無かった
ずっと追いかけていた、眺めた、想い続けていた、人物なのだから
少しずつ近付くその影が、帝人からほんの一メートル程の距離のところで、ぴたりと動きを止める
その影をじっと眺めながら、帝人は小さく口を開いた
「こんにちは、」
「……久しぶりだな、帝人」
「はい、」
薄い唇から零れる、疾うに耳に馴染んでしまった声
その声に安堵すると同時に胸の奥底がずくずくと疼く
しかし、それには蓋をして、気づかないフリをして、
帝人は優しく笑った
「お久しぶりです、静雄さん」