空白に融ける
「…臨也、さん?」
「……帝人君はね、外なんか出なくていいの、ずっとずっと此処にいればいいの。
だって此処にいれば飢えることもない、悲しむことも傷つくこともない、ずっとずっと君を守っていられる。
だから外に出る必要なんて……ないだろう」
ベッドに乗り上げ、ベッドに横たわる帝人の顔の横に手を付き、愛しげに笑う
帝人は不安げに瞳を揺らして、「臨也さん、」と溢すと、臨也は「なぁに」と囁いた
「…臨也さん、僕は貴方になにもしてあげられませんよ」
「帝人君は俺の傍にいてくれるだけでいいの」
「でも、」
「だから俺以外のことなんて考えないで、ずっとずっと俺だけを思って」
笑う、笑う、泣く様に愛しげに笑う
そんな臨也に帝人は手を伸ばすと、ぎゅうと臨也の首に腕を絡めて引き寄せた
引き寄せたことで臨也の顔は見えない
けれども、臨也の声を先程よりも近くに感じて、熱を近くに感じて、帝人は安堵した
「……ははっ、君の心もさ真っ白に染めることが出来たらいいのに。
そうしたらさ、一から俺のことだけで染めることが出来るのに…そうしたら……そうしたら、こんなことしなくても、君は俺の傍にいてくれるのに」
臨也は帝人の顔が見えない状況で、右手だけを動かして帝人の足首に触れた
ずっと此処にいる帝人の、唯一冷たい箇所
冷たい、冷たい、馬鹿みたいに細い足首を締め付ける“拘束具”
そこから伸びた長い鉄の鎖はベッドの足に括り付けられている
じゃらりと鎖が音を立てて、空間に消えた
「ごめんね、ごめんね帝人君でも、でも…離せないんだ怖いんだお願いだから俺を嫌いにならないで」
ごめんねごめんねごめんね好きだよごめんね嫌わないでごめんねごめんね傍にいてごめんねごめんね
生温いなにかが肩を濡らす感触に、帝人の胸中で溢れたのは紛れもなく “愛しさ”
ぎゅっと抱き寄せる力を強くすると、臨也はびくりと震える
みかどくん、こんなに近くにいるのに消えてしまいそうなその声に、帝人は優しく「はい」と返す
「好き、だよ」
「はい」
「嫌わないで」
「はい」
「傍にいて」
「はい」
「……ごめんね」
「はい」
「ごめんねごめんねごめんねごめん、ね」
「僕はいますよ、ずっと此処にいます……ずっと、ずっと」
だって僕の心はとっくに粉々に壊れて、真っ白な欠片になってしまったのだから
(こんな空っぽの僕を、貴方が好きだと言ってくれるのなら)
(僕はずっと、此処にいますから)
「帝人君、」
「はい」
「大好き」
「僕も、大好きですよ」
愛しい君へ、愛を紡いで
今日も冬を忘れて籠の中で眠りにつく
(君の熱が、あれば十分)