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鬼道くんと大介さん

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 フットボールフロンティア・インターナショナルが幕を閉じた。日常が、戻ってくる。
そんないつもの変わりない平日の午後の授業。俺は板書もそこそこに窓の外の流れる雲を眺めつつ思い耽っていた。
世界各国から同じ志を持つ少年たちが結集し凌ぎを削った大会も、とにかくサッカーにひたすら打ち込んだ夢のような日々も、
終わってしまえばそれこそただの夢だったのではないかと思う。
 しかしそんなことはない。たくさんの出来事を通して俺たちは成長した。笑いあい、泣きあった。その思い出は確かに俺たちの中にいる。
涙を流したのは喜びからだけではなかったけれど、俺はその感情を踏みしめた。嬉しいことも悲しいことも辛いことも、踏みしめて踏みしめて、心に刻み込んだ。

 夢から現実へ。そして、日常へ。綱海や吹雪ら地方の者は地方へ帰り、俺はイナズマジャパンの司令塔から"雷門中サッカー部の"司令塔へと、肩書きを戻した。

 そういえば昨日福岡から分厚い封筒が届いたかと思えば、その中には陽花戸中サッカー部からの手紙が詰まっていた。
立向居を世界へ連れて行ってくれてありがとう、また練習試合をしよう、今度は負けない、なんてたって日本代表GKがうちのチームにいるんだからな! という内容だった。
文面からチームメンバーの面々が思い浮かぶ。ゆっくりと時間の流れる福岡の町が、あの仲間思いのチームを作り上げたのだろう。良い仲間を持ったな立向居、と和やかな空気になったのを覚えている。
それに再戦の申し出は熱くなる。こちらだって負ける訳にはいかない。新たな戦略を練らないと。
ノートにサッカーフィールドを模した図を描こうとしたとき、授業をそっちのけにしようとする俺を戒めるかのように六時間目の終業のチャイムが響いた。
筆記用具やノートをまとめ、鞄にしまう。担任がホームルームもそこそこに締めの挨拶をする。
それをきっかけに、大人しく席に着いていた生徒たちが一斉に動き出す。
俺も鞄を肩に引っ掛け、クラスメイトに帰り際の挨拶をしつつ教室の扉を引いた。
廊下に出れば遠くで忙しなく歩くオレンジ色のバンダナが視界に入り、思わず口角が緩むのを感じた。
さあて、部活の時間だ。


 ***


 とはいったものの、久々の部活に皆気が緩んでいるようだった。
簡単なトラップミスや取りこぼし。パスは繋がらずシュートの軌道も定まらない。
先ほどからイージーミスをしては俺が注意をする。これの繰り返しだ。
みんな集中力が切れかかっている。部活の終わりまであと一時間半ほどだが、一度休憩を取ったほうが良さそうだ。
ベンチで記録を撮っている春奈に休憩の準備を頼もうとマントを翻しフィールドに背を向けたときだった。

「きっ鬼道!」

振り向く。呼ばれたから振り向いたのは当然だ。しかし、それは失敗だった。
焦るような豪炎寺の声。
ボールが目前に迫る。凄まじい勢い。からだが、うごかない。

「危ない!」

シュートは見事に俺の顔面に決まった。

ぼうっとしていた俺も悪いが、豪炎寺よ、シュートをこんなとんちんかんな方向に変化させるのは反則だろう?!

 ……俺を含めた全員の集中力なんて、とっくに切れていたようだった。


 ***


 からだが仰向けに崩れた。とりあえずゴーグルを外す。
溶けるような赤い色が視界いっぱいに広がった。日が傾きかけた夕暮れの空だった。
水彩絵の具で描いてみせたような、ぼんやりとした、あお、むらさき。その青に混ざる鮮やかな赤。あかむらさき。
色が積み重なり、流れる雲がその色をまとう。様々な色が混ざり合っていたけれど、それでもやっぱり空は綺麗な赤い色だった。
 あの空をもっと見ていたい気持ちは多少あったものの、残念なことに視野はぐねぐねとゆがんでゆがんで、世界は墨汁のような真っ黒に染められた。
身体がぐっと重くなる。意識が沈む。どこか遠くで「きどう」と、名を呼ぶ声が聞こえる。
誰だろうか。そういえば先ほど、ちらりとオレンジ色のバンダナが見えた気がしたから、声の主は、たぶん……――


 ――赤く染まった西の空を、からすの黒い影が二羽分、ツイと飛んでいった。


作品名:鬼道くんと大介さん 作家名:おとり