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鬼道くんと大介さん

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 ***


「おい、大丈夫か! しっかりしろって!」

ぺしぺしと頬を叩かれる感触で目を覚ました。
ずいぶん長い間眠っていたように思う。全身が少しだるいし、何より頭がズキズキと痛む。
当たり前か、豪炎寺のシュートを顔面直撃したのだから。……あとでこってり絞ってやらないと。
目をぎゅうと何度か開け閉めしてから辺りを見渡してみると、まだうまく見えないのだが、何だか妙な違和感がある。
たしかに空は夕暮れの赤だったが、知らない土地の感触、知らない空気のにおいがする。

「おっ、よかった。気がついたんだな!」

視界がはっきりしてきた。
さっきまで共にフィールドを駆けていた部員は一人も姿を見せず、
その代わりに目の前には俺と同い年、もしくはひとつ上くらいの少年がいた。
鼓膜を揺らし耳を突き刺すようなそいつの大きな声は俺の意識を叩き起こしていく。
聞き馴染みのないような、しかしどこか聞き覚えのある気がする、なんともむず痒い声だ。
意識は覚醒したばかりだったが頭はいつもの速さで回った。
何故だか聞いたことのあるようなその声を反芻しながら記憶の糸を手繰り寄せる。
そして、かちりと、当てはまる答えを見つけたような気がした。無意識のうちに口が動く。

「……円堂?」
「……そうだけど、なんで俺の名前を知ってるんだ? お前この辺りじゃ見かけない顔だけど」

もしかして俺って有名人?! たはは! と豪快に笑う目の前の「エンドウさん」に、我らがキャプテンの面影が重なって見えた。
そういえばこの見覚えのあるオレンジ色のバンダナ、ぴょこりと飛び出た前髪、栗色の髪と黒曜石のような瞳、そして「エンドウ」という名。

 ――おい、まさか、そんなことがあってたまるか。

「あの、失礼ですが、下の名前を聞いてもいいですか」
「ん? 大介だけど。エンドウダイスケ」

エンドウダイスケ。そのことばに、うっかり目の前が真っ白になる。いけないいけないと思いつつ頭を左右に振り自分を取り戻す。
頭がズキズキと痛むのは、シュートを顔面でど根性キャッチしたあの衝撃からだけではなさそうだ。
ええと、円堂大介? 一度大きく息を吐き、そして吸う。

 ――そんなこと、あってたまるか!


 ***


 カアカアと鳴くからすの声が東京のそれより少し穏やかそうに聞こえた、と漏らすと目の前の円堂だけど円堂じゃない円堂さんは「そりゃそうさ!」と笑った。
「鬼道は東京から来たのか、すげえな!」ニッと笑うその顔は、やはり超がつくサッカー馬鹿の笑顔だった。……頭の痛みは取れそうにない。

 対宇宙人のために日本中を行脚したり、様々な思惑が交錯した世界大会を制した俺たちだから理不尽な展開には慣れているつもりではあったが……タイムスリップは流石に初めてだった。
しかも時間軸どころか位置の座標も移動しているのだからよけいに理解に苦しむ。こんな時の対策はこうだ。「理解しようとしない」。
残念なことに、これが一番効率が良かったりするのだ。なんとかいつもの調子に戻った、気がした。

 混乱する頭と相談しながら、大介さんから得た情報を纏めるとこうだ。
ここは昭和の福岡。陽花戸中ちかくの小さな公園。見渡せばいくつかの遊具が夕日に照らされて暖かな色を湛えていた。
大介さんは15歳。俺の一つ上、中学三年生で陽花戸中サッカー部に所属。ポジションは勿論、ゴールキーパー。
いつか自分が収集した円堂大介のデータとも照らし合わせると、やはりこの人が円堂守の祖父、円堂大介さんであることに違いなかった。
……先日のFFI決勝戦で顔を合わせた老大介さんの姿がちらつく。
 部活も終わり、いつもの帰り道をボールを蹴りながら下校していたらこの公園で倒れている俺を見つけ駆けつけてくれたらしい。
「いやあ、びっくりしたよ! 死んでたらどうしようかと思ったね」と笑うのはいいが力強く俺の肩を連打するのはやめて欲しい。
ふと、俺の切なる思いが伝わったのか、徐に大介さんは叩く手を止めたかと思うと、まじまじと俺の姿を眺めた。
そんなに変な格好だろうか。自分自身に視線を落とすが、纏っているのは雷門のユニフォームだ、
そこまでおかしいとは思わないが確かにここいらでは見ないユニフォームだろう。
大介さんは怪訝な顔をしているかと思えば、そうではなかった。
逆に、いいものを見つけたときの悪戯っぽい笑みを浮かべている。少々嫌な予感が脳裏をよぎった。

「鬼道はサッカーするのか?」
「……まあ、それなりに」
「だろうな! サッカー上手そうな匂いがする」
「匂いって……」
「じゃ、サッカーしようぜ!」

予感は的中した。
やはり円堂の祖父だ。血筋は怖い。
ここを断ったって問答無用にサッカーをけしかけてくるのは火を見るより明らかだ。
それに断るつもりもまったくなかった。この謎のシチュエーションに頭を使うよりも、いまはとにかく身体を動かしたかった。
そんなぐだぐだした思考は、大介さんのボールを蹴り始める掛け声にかき消された。
ボールを蹴り返すたびに、俺のもやもやは吹き飛んでいった。
サッカーをしていれば落ち着く。この単純な身体のつくりに思わず口元が緩んだ。やはり俺もサッカー馬鹿の一員なんだろう。


作品名:鬼道くんと大介さん 作家名:おとり