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ラブ・ソープ

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ごうごうと風の吹き抜ける密室の中。
そこはかとなく不機嫌な杉江と、どこか気もそぞろな黒田の静かな夜のドライブはやがて見慣れた景色へと至る。気付けばあと数回、角を曲がれば黒田の家に辿り付くと言うあたりに差し掛かっていた。
「寒ィな」
二人でいるときはいつも寄り道をするコンビニの前を今夜は素通りする杉江に、ぽつりと呟いてみても相変わらず返事はない。それに黒田は口の端を苦く引き下げ、ヒーターと夜風とで中途半端に温まった車内で、もういちど 寒ィな、と繰り返した。
車はゆっくりと減速をし黒田の住むマンションの前で止まる。
「体冷えてんだろーから、コーヒーくらいなら出すけどよ……」
黒田が車を降りたら途端に走り去ってしまいそうな車に、軽くフロントピラーに手を掛けて再び車内へと上体を押し込み杉江へと問いかける。
「上がってくだろ?」
尋ねる声は自分でも些か強引に聞こえた。けれど、そんなの仕方ないと、黒田は内心開き直る。今夜ばかりは、このまま帰すのは不味い気がするのだ。
車の中、ずっと考えていたのだ。もし、今夜このまま別れてしまえば、どうなるだろう、と。
一晩眠って、明日にはすっきりとなんにもなかった振り、いつも通りの杉江に戻っているだろうか?
きっと、杉江のことだから、ぐるぐると考えて眠れなくなって、それでも翌日にはなにもなかったような振りをするんだろう。そうして、きっと自分はその『振り』に気付いてしまうだろうし、杉江も黒田が気付いたことに気付くはずだ。
「な?」
……ああ、ややこしい。
ぐるぐると車の中で考えて、結局導き出した乱暴な結論を実行するために、黒田はにかりと笑うと杉江の二の腕を引いた。掴んだ手のひらの下で、杉江の腕の筋肉が一瞬固く張り詰めるのが分かる。ややして。
「ああ……うん、そうしようかな」
「じゃ、車、いつもの場所に停めてこいよ。先に部屋に戻ってコーヒー用意してっから」
「分かった」
長く詰めていた息をそろそろと吐き出すように、杉江が応えた。その声の陰りに気付かぬ振りをして軽く肩口を叩くと、くるりと身を翻し黒田はマンションのエントランスへと向かった。背後からは、車の走り去る低いエンジン音がする。
「ッたく、しょうがねェなあ」
杉江は戻ってくるだろうか? 自動ドアを通り抜けながら、ちらりと自問自答する。
答えはすぐに出た。戻ってくる、だ。
ほんとうは、杉江も黒田の部屋に来て確認したいはずだろうから。
「アイツも意外とドМだよな……」
きっと今頃は、駐車場に停めた車の中でぐるぐると悩んでいることだろう。部屋に入って確かめたいけれども、同時に知るのも怖いのだ。黒田に石鹸を送った相手を。
黒田の使った石鹸は確かに、いかにも女性の好みそうなデザインや香りで。石鹸箱を検めた時に、きっと杉江も感じたのだろう。そうして、貰いものだと言った黒田に、色々と考え込んでしまったのだ。きっと。
「アイツ、頭いい癖してバカだ」
黒田に、一言聞けばいいはずなのに。仄かな花の香りさえ疎ましく感じるほどに、色々と考え込んで。
苦笑交じり呟きながら、辿りついた玄関の扉を開ける。途端に、冷えた空気に染み込んだ花の香りがふわりと黒田を迎えた。手探りで灯りを点して靴を脱ぐと、傍らのシューズボックスの上へと視線を向け、くすん、と鼻を鳴らす。
「ほんと、ほんとに……」
今頃、駐車場にいるはずの杉江が車の中でぐるぐると悩んで、思い詰めて、開き直るまできっと15分弱。
もう後少し経てば、杉江もやってくるだろう。その後、玄関を開けて迎えた花の香りに少しだけむっとした顔をして、けれどすぐシューズボックスの上に置かれた『それ』に気付くだろう。そうして、なんだ、とひどく間抜けな顔をするはずだ。
それは、殺風景な玄関口のシューズボックスの上にぽつりと置かれた籠と一葉のはがきで。
籠には今朝方黒田が持ち出した石鹸と色違いながらよく似たカラフルな石鹸があと二つ収められている。そうして、その持ち手に結ばれた水色と白のリボンの端には二人分の筆跡で、喜びと感謝の言葉が綴られていた。
「バッカだなあ」
ちょいちょいと裏返ったリボンの端を指先で弄い直しながら、黒田はシューズボックスの隅に伏せられていたはがきへと空いた手を伸ばす。そうして、しばらく考え込むように目を留めた後に、はがきをバスケットへと戻した。石鹸とクッション材を利用して表面がこちらへ向くように角度を整え、にっと笑う。
「さあて、スギが来る前にコーヒー落としとくか」
急いでセットしておけば杉江がやってくる頃には丁度、落ちているだろう。ついでに、軽く口に運べるものもなかったか。
「ほんとう、面倒臭ェなあ!」
わざとらしく呟いて、小走りにキッチンへと向かう黒田の後ろでは、モーニングコートとウェディングドレス姿の二人の写真があしらわれたはがきが、やがて杉江のやってくるだろう玄関扉へ向けてぴんと立っていた。
作品名:ラブ・ソープ 作家名:ネジ