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【DRRR】月夜の晩にⅡ【パラレル臨帝】10/31完結

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この情緒不安定な男を、帝人は真っ青な澄んだ瞳で見つめ続けていた。
これも1つの観察対象であると言わんばかりに。
そして思う。
自分には確かにかぐや姫の地が流れているのかもしれない。友人が言っていた『ニンゲンに好かれ易い』の真意はここにあるのかもしれないと。
かぐや姫はその姿を見た者を虜にし、数多の男から求婚を受け、最終的にはニンゲン社会の頂点に立つ男の子供を身ごもるに至った。もしかすると自分にも同じようにニンゲンを惹き付ける何かがあるのかもしれない。

「教えてよ帝人君、君は何でこんなに俺を苦しめるの。俺はどうしたらいいのさ」

母親に伺いを立てる幼子のように、丸まって抱えた膝と腕の間から、ちらりと臨也がこちらを覗く。
5秒毎に信念の変わる男は、言ってしまえば自分を固定できない子供と同じだった。
帝人は窓際を離れ、耳を少し伏せながら臨也に近づく。
向かいのソファに座るか悩んでから、ゆっくりと臨也の隣に腰を下ろした。

「臨也さんはまるで子供ですね」
「うるさいよ」

自分が今子供っぽい態度をしているという自覚はあるのか、拗ねた口調で再び顔を隠した。
帝人は少しだけ笑って天井を見上げる。
煌々と部屋を照らす電気は便利なもので、ただその大量生産の方法を知らないウサギ達にとってはごく一部の政府機関でのみ使用される貴重品だった。
コレも持ち帰らないと、と帝人は知りたい情報を心の中でリストアップしながら非常に乾いた、それでも温かい気持ちで臨也を振り返る。

「臨也さん。僕はもう3日しかいないんです。僕が貴方をどう思おうと、貴方が僕をどう思おうと、構わないじゃないですか。傷つくのが嫌だというなら僕は泣きませんし、何を見たって僕は貴方に感謝こそしますが、憎んだりは絶対にしませんよ」

3日後の満月には迎えが来るはずだ。そうすれば自分は月へと帰り、今得た情報を伝記してまた1つ月を豊かにする。あの管理統合に雁字搦めにされた社会が、ほんの少しでも楽しくなる。
自分の思い通りの社会を築いていくことが出来る、そう思えば、この混沌とした地上に比べるとシンプルすぎてつまらない月が帝人にとって魅力的に見えた。
ただ、この人をここに置いて行くことが少し気がかりなだけで。

「……3日しか、ない……」

いつか来るであろう言葉の予感に、帝人は心の奥が少しだけ痛む。
この世界に情報を得る以外の心残りを作ってはいけないから、ずっと前から用意していた返答を思い返す。
顔を上げた臨也は泣いてなどいなかった。かと言って笑ってもいない、ただ無垢で寂しげな表情を浮かべた、素のままの姿だった。
最初に会ったときに赤いと思った目はやや褐色をした明るい色で、問いかけるようにきらめいた。

「帰らなければいいだろ」

ああ。
やっぱり。

「俺のこと置いて行かなきゃいいだろ」

伸ばされた手に強い力で肩を押さえつけられ、痛みに帝人は目を瞑る。
覆い被さるようにソファに倒され、やけに荒い呼吸音が近い。
目を開ければ、狂気を隠した泣きそうな顔が帝人の表情を伺っていた。
怖がっているようにしか、見えなかった。

「俺は人が好きだ。人が見せる感情も反応も大好きさ。全人類を愛してる。なのに、こんなに愛してるのに人間はみんな俺を嫌って離れていく。だったらもう人間に希望なんて持っても仕方ないじゃないか。俺は」

叩きつけるように早口で告げられる言葉は、全部帝人に降り注いだ。体重をかけて押さえられる肩が痛いが、それを訴える暇なんて与えられなかった。
そんな場合ではないのだ、きっと。

「ねぇ…1人は寂しいよ。帝人くんがずっと俺の傍にいてくれたらいいじゃないか」

だから逃げないで、置いて行かないで。
一向に緩まない腕の力は、まるでここに縫い付けて帰さないと言わんばかりだった。この世界で見た兎という生き物のように細い首輪をつけてゲージの中に監禁される、そんなイメージが浮かぶ。
この男ならきっと迷いも疑いもなくそうするだろう。
けれど帝人は、前々から用意していた返答を口に上らせる。

「臨也さん、僕を殺すつもりですか」