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【DRRR】月夜の晩にⅡ【パラレル臨帝】10/31完結

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思っても見なかった台詞に、濁り始めた臨也の瞳がふっと現状を見る。苦痛に歪んだ目の前の表情にようやく気付いて、慌てて体を起こした。
けれど、殺すつもり、と言ったのはその現状に対してではない。

「臨也さん、何故月ウサギが月の力の強いこの時期にしか来ることが出来ないかご存知ですか?」

帝人は無表情のまま、大人びた口調で淡々と語りながら体を起こす。
離したままの形で手を上げた状態でかたまる臨也は、その動作の1つ1つをただ見つめた。
何の感情も含まないように抑えられた言葉に反して、帝人の長く白い耳だけが、ふるふると震えては伏せたりピンと立てたりと忙しなく揺れ動く。

「万が一、今回のように地上に落ちた時に救出することが出来るのは、この時期の満月の夜だけだからです。ならばなぜそんなに慌てて救出する必要があるのか、というと」

真っ直ぐに差し込まれる鋭利に尖った帝人の視線が、臨也の目から差し込んで、剥き出しになっていた素の心を突き刺して抑えつけるような感覚がした。
それは魅了するのと似通っていて、それなのに依存することを強く拒絶している。

「月ウサギは満月に帰らなければ、その次の満月を見ることは出来ません」

ウサギのそれと酷似した長い耳は、へたりと後ろ向きに倒されて言葉を嫌うように伏せられた。

「満月を逃せば、新月には死んでしまう。そういう生き物だからです」

帰路に立たたねば死を待つのみ。
だからこそ、帰らなければいいという言葉は、殺すと同意義になってしまう。
だからこそ、ここに残りたいと思うような心残りをここに残してはいけない。ここに残したいと思われるような依存的感情を残してはいけないから、人間からは逃げなければならない。月ウサギが地上に降りる前に皆が習う事柄だ。
逃げろと叫んだ正臣の言葉が今更ながらありありと思い出される。

「……絶対に?」

臨也の搾り出すような声に、帝人は視線を離さないままゆっくりと頷いた。
いつかは必ず言う必要がある言葉だったけれど、言うのがここまで遅れてしまったのは、きっと自分でもそれを思い出したくなかったからなんだと、帝人は思う。
本当はこの世界に、複雑でおもしろい世界に、この人間の中でも規格外な臨也と一緒にもっといたかった。あと3日じゃ足りない、そう願ってしまっていたから。

「じゃあ、帰らないとね」

案外、あっさりと言って臨也はソファに再びもたれかかる。
その様子が意外だったので、帝人は首を傾げてみせた。

「何、俺なら鎖でも着けて、置いて行くぐらいなら傍で死んで、とでも言うと思ったの?」

まさにそのとおりだった帝人は、急に態度を変えた男を不思議そうに見上げる。
今さっきまでの執着の方がおかしかったのだとは思うが、情緒不安定な男はどうやったって自分の手に入らないと分かった時点で興味をなくしたのだろうか?
しかし、そんなことを考える帝人の目に映る男は、だらしなくソファに凭れながらも、またその腕で目を隠している。

「ちょっと前の俺だったら、そう言うかもね」

臨也の声は、普段よりも少しだけ高かった。
泣いているのではない、けれど、いつもどおり振舞おうとしているのに高ぶった感情を抑えきることが出来ないことが物語られている。

「帝人くん、俺はさ。どうやら本気で君のことが好きならしい。おかしいよね、人が好きな俺が、人間でもないし、見た目は全くの子供で、男で、性欲の対象にもならない君のことが、だよ?」

そんなこと既知の事実であるため、帝人は驚かなかった。
普通の感情の流れを組んだ関係ではない、というかそんな関係を築くことの出来ない男だということも分かっていて、その上で、この男が自覚するよりも前に気付いていたのだ。
きっと前に会った2人組の男女も知っているだろう。

「こんなにも俺が大事にしたいと思うのは、後にも先にも君だけだろうね。だから俺は君にこの世界のアンダーグラウンドな部分を見せることを躊躇ったし、今だって、帰したくないけど、…君を殺すぐらいなら…、自分の気持ちを殺すぐらい簡単なことだと思えるよ」

腕を放して笑って見せる臨也の笑顔は、涙を流さない泣き笑いだった。
本当に可哀相な、可愛そうな人だと思いながら、帝人はソファの上に立ち上がる。
不安定な足元に、抱きつくようになりながらも、臨也の方へと飛び込んだ。
その頭を短い腕で抱え込んで、優しく胸の中に収める。
親が子供にするように、抱きしめた頭をゆっくりと撫でながら、言い聞かせるように優しく言葉を紡いだ。せめて心残りがない程度に、この男を愛してあげてみたいと思う。

「ありがとうございます。臨也さん」

いつもされるのとは逆に、臨也の小さな耳へと染み込ませる様に囁く。
わずかに戸惑いと驚きで逡巡した臨也の腕が、やがて子供の腰を抱くように回された。

「……俺が泣ければ良かったのに」

泣けない男の代わりに、月ウサギの大きな瞳から、優しくて暖かなしずくが1つ、コロリと落ちた。