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【DRRR】月夜の晩にⅡ【パラレル臨帝】10/31完結

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ウサギと月待つ人の夜



エピローグ

ススキを大量に用意するのはこれで3回目だ。
真っ黒なライダースーツを金色の塊に埋めながら、セルティはススキを植えていった。
廃ビルだった建物を買い取った男は、その最上階と屋上を自分の部屋にして、他の階をテナントに貸し出しているらしい。
何度かススキを持って移動している姿を一般のサラリーマンに目撃されてドン引きされた。ただし、昨年にもこうしてススキを運んでいたので、昨年に同じ姿を見た人がいるのか、一部の人間には「ご苦労様です」と声をかけられた。
そんな反応がもらえるとは思っていなかったが、確かにこの都会の真ん中で見事に茶色く色づいたススキを両腕一杯に抱えていれば、何かしらの事情を察して声をかけたくなるのだろう。

[こんなことするんなら、最初からススキを植えておけばいいだろう]

屋上緑化、とは名ばかりの土の敷き詰められた空間の持ち主に、セルティは半ば呆れながらPDAを向ける。
何やら子供用の服やめんどくさそうな映像機器を準備していた男は、不機嫌そうな声をあげた。

「今の時期にちゃんと色づいてないと駄目なの!植えたってここらへんじゃまだ青いままだろ去年がそうだったんだから!」

去年、と言えば、やはりススキを運んだセルティだったが、その時はもう少し早い時期に苗のようなかたちでこの屋上の人工的な野原に植えたのだった。
それは月夜の美しい時期にはまだ真っ青のままで、もっと冷えるようになってから色づいていった。
そのせいで去年は来なかった、と信じている臨也は、今年は万全に、とまたセルティを駆り出している。
その意気揚々とした姿に、諦めたように肩を竦めたセルティは最後のススキを植え終えた。
すでに枯れたものを植えなおして大丈夫なんだろうか、と思いながら、刈り取るよりもはるかに面倒臭い、根こそぎ抜いて植えなおすという作業に痛む腰を伸ばす。
見上げた青い空に、白く薄っすらとした輪郭が浮かぶ。
まだ太陽が西にあるのに、東の空に浮かび始めた半月が、わずかに煌いたように見えた。
無い目を瞬くが、もう何もない。

「ちょっと運び屋!終わったなら、こっち」

今年は期待できるかもしれない、なんて心の中でセルティは笑った。
仕事の後にぶっきらぼうながら自分を呼びつけて、コーヒーの一杯でも振舞ってくるように男の意識を変えた存在は、彼女も待ち遠しい。
一方的に取り付けた約束に彼が本当に来るのかどうかは置いておいて、生き生きと真っ当に生きていこうとする臨也を見ていると、この年に1回の肉体労働がやや楽しくなってきたところだ。





その晩、月が零した涙のように1筋の光が、ふわふわと地上に降りた。
光は男の腕に落ちた途端に輝きを失ったが、そこには幸せに満ちた声が浮かんだ。

「ただいま、臨也さん」
「おかえり、帝人くん」

一面のススキがサラサラと音を立てて、月の光を吸収しては金の輝きを増していくのだった。