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ANGEL

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「おどろいた。」

自分にウィットが乏しいとは思わない。しかし他にどう表現の仕様があったといえよう!




 その日、アルフレッドは友人と新しくできたハンバーガーショップへと行った。アルフレッドは実年齢こそは何百年というものだが、見た目は至って普通の19歳である。その日一緒にハンバーガーショップへ行ったのも、気まぐれに行ったバーで出会った若者たちだった。アルフレッドが知らないいまどきのゲームの話で盛り上がり、ハグをして別れた。少し厄介なことに、その中にいた女の子がアルフレッドを気に入ったらしく、家に行きたいと言いだしたが、そこは長年生きているだけあって、アルフレッドは19歳とは思えないほどスマートにその申し出を断った。あまりにも素晴らしい言い回しだったため、女の子はちっとも機嫌を損ねてはいなかったし、アルフレッド自身自分の完璧な立ち振る舞いに少しだけ酔いしれた。

そんなこんなで楽しいひと時をすごし、途中ゲームショップで勧められたゲームを購入し、家でゆっくり楽しもうと思いアルフレッドが家のドアをあけた途端。

「おどろいた。」

玄関先に天使が倒れていたのだ。


***

 その光景を見て、アルフレッドは確かに驚いたものの、そこにいた天使というのは、エンジェルではなく、確実にアルフレッドにとって厄介なものだったため、すぐにうんざりとした気持ちになった。さきほどの女の子の誘いなど厄介の内にも入らない。むしろ喜ばしいことだった。目をつぶり、目の前の光景を遮断した後、意を決して目を開く。玄関先に倒れこんでいたのは、天使―――――の格好をした、アーサー・カークランドだった。いまはもうアーサーとの兄弟関係は破棄されていたが、元がついたとしてもこんな男と兄弟だったなんてとんだ屈辱だとアルフレッドは思った。

「さて、どうするべきかな」

 天使の格好をしたアーサーを跨いで何も見なかったことにしてゲームをするのもありだと思う。実際それが正解なのだろうとアルフレッドは冷静に思った。自分がここで構わなければ、アーサーは勝手に目を覚まして、勝手に帰っていくだろう。(少しうるさくするかもしれないが。)
けれど、よくよくアーサーの顔を見てみると、その顔色は優れていなかった。当たり前だろう。こんな寒い日に、薄っぺらい布を一枚体に巻いているだけなのだから。アルフレッドは小さくため息をついて、まずは自分が着ていたジャケットを天使もといアーサーの上にかぶせた。おそらく、玄関先という場所も悪いのだろう。ここはあまりに風通しがよすぎる。しばらく思考を巡らせた後、アルフレッドはとても大きなため息をついて、アーサーの体の下に手をいれた。腰と、膝裏のあたりをすくいあげるようにしてもち、指先で玄関の鍵を閉める。よほど熟睡しているのか、アーサーの体にはまったく力がはいっていなかった。そのため、頭が大きく後ろへと倒れてしまい、その首すじが痛々しいほどあらわになった。アルフレッドはそこを一瞥し、苦しそうだと思い、アーサーの頭を自分の肩にもたれかからせるようにした。それだけでどっと疲れてしまって、アーサーが目覚めたら怒涛の悪態ラッシュをくらわせることをアルフレッドは胸に誓った。


***

 ジャケットだけでは寒いかもしれないと思い、そのあと、アルフレッドはクッションと毛布を自室から持ってきた。アーサーが目覚めた時すぐに罵倒できるように、アーサーはリビングのソファに寝かせた。そしてアルフレッド自身はソファに背をつけるような格好で座り、リビングの大型テレビで買ってきたゲームをしていた。

勧められたゲームはとてもおもしろかった。時を忘れさせるゲームというものは良作の証だ。今度菊にも教えてあげないとな。とアルフレッドはくふくふと笑う。けれど、そんな良作のゲームもたった一時間やっただけで、意識は後ろで寝ているアーサーへと移ってしまった。そうなのだ。どんなにゲームに熱中しても、10分に一回はアーサーのことが気になってしまう。それが理由で、ゲームに集中できず、一時間ほどで中断せざるを得なくなってしまった。

―――ていうか、いつまで寝てるんだこの眉毛。

セーブデータを残し、ゲームの電源を切ると、アルフレッドは天使もといアーサーのいるソファへと向き直った。厚く乗せられた毛布はぴくりとも動かない。息をしていないのかと一瞬、背筋に冷たいものを感じたが、口元に掌を当てれば、かすかだが、息をしている。ほのかに紅茶のいいにおいがする。

「ああーもう。早く起きないから調子狂うんだぞ!」

アーサーから顔をそむけるようにしてアルフレッドは俯き頭をかいた。苛々としたまま、アーサーの頭に手を乗せて、そこまで刺激がないようにポンポンと叩いた。

「ねえ!もういい加減に起きなよ!十分寝ただろう!」

アーサー!

アルフレッドが呼びかけると、それまで微動だにせず熟睡していたのが嘘であるかのように、アーサーの瞳がゆっくりと開かれた。

「ん・・・?アルフレッド・・・」
「やっと起きたかい。どういうことか説明してくれるんだろうね?」
「アル・・・あ・・・俺」
「寝ぼけてるのかい?」

目をとろけさせながら毛布の下でもぞもぞと動くアーサーになぜかもやもやとしたものを感じながらアルフレッドはその感情を否定するためにアーサーの鼻をつまんだ。
「ぶへっ」と間抜けな声をあげて、アーサーはやっと大きく目を開く。

「いてーな馬鹿野郎!」
「あのねえ、君そんなこと言える立場じゃないから。なにその格好。あとどうして俺の家にいるの。どうやって入ったの。不法侵入ってことだったら警察呼ぶけど。」
「う、うるせえ!」
「うるせえって・・・俺が言っているのは正論だけだぞ、アーサー。」
「う、うるさいうるさい!あと俺はアーサーじゃない。天使だ!」

エンジェル。

確かに言われたその単語にアルフレッドは黙ることしかできなかった。この人は、今自分のことを天使と言ったんだ。アイム、エンジェルと。この顔で。この眉毛で。この・・・格好は確かにエンジェルだけれども。

「いいかい、今俺が黙っているのはいよいよおかしくなった知人にかける言葉がみつからないからなんだ。とりあえず・・・ええと・・・有名な医師でも紹介しようか?」
「ばかあ!まるで俺が変人みたいに言うな!」
「せめて変人であってくれよ!本気で言ってたとしたら君、相当だぞ!」
「っ・・・ばかー!」

天使・・・じゃない、アーサーがわめくと同時にその瞳からぼろぼろっと大粒の涙がこぼれた。どっからどうみてもアーサーじゃないか、この泣き方からなにもかもまで。アルフレッドが冷ややかな目線を送っていると、「もうお前なんか知らん!」とアーサーが叫び、その声に連動するように背中の羽が大きく二回羽ばたいた。

「Oh・・・よくできた羽だ。」
「本物だ!」
「そういうのってティーンくらいの女の子が言ったら可愛いんだけどね。君じゃあ役不足だよ。」
「その憐れむような顔をやめろ!」

***

それからが大変だった。
作品名:ANGEL 作家名:リョウコ