二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

そういうもののはなし

INDEX|1ページ/3ページ|

次のページ
 
『きっと何か、ロマンみたいなものなんじゃないかなあ……僕も、なんとなくわかるよ。
 違うな。わかるようになった、かも。うん、……多分きっと、それだけのことなんだ』



アメリカがフランスの家を訪れたのは、唐突に夏が終わって涼しい日々が続きはじめたある日のことだ。
陽射しには夏の白さを残しながら、風に湿った冷たさが混ざる過ごしやすい時期。
玄関先で鳴らしたベルに反応はなくて、庭の方へまわってみようかと踵を返したところでまさに鍬やら鎌を抱えたフランスが戻ってきた。思った通り、畑の手入れに勤しんでいたらしい。
片手を挙げて、挨拶。

アメリカの来訪が突然なのはいつものことなので、フランスはもう驚きもしない。
ただ、アメリカの顔が判別できる距離に近づいたとき、ほんの少し怪訝な顔をしたようだった。

「やあ、フランス」
「んぁー? なんだ、珍しく凹んだツラして。また日本に説教でもされた?」
「……俺が凹んでたら日本の名前が出てくるって、どういう連想だい、それ」

呆れた口ぶりで返答しながら、『へこんでいる』と言われたことについては否定せず唇を曲げる。何も言わないうちから心境を言い当てられてしまうのは存外堪えるものだ、とアメリカは思った。あからさまに落ち込んだ顔はしていないつもりだったのだけど、これが年の功というものなんだろうか。

「こないだ日本がホラー映画の鑑賞会に付き合ってくれないっつってそんな顔してたじゃないか、お前」
「あ……あれは日本が悪いんだぞ。映画に誘っただけなのにJUONと呪怨の違いについて延々二時間」
「そりゃ災難だが、どうせ日本のそういうスイッチ踏み抜いたのはお前さんの方なんだろ」

よっこらせ、と年寄り臭い掛け声とともに担いでいた農具を玄関脇へ放る。気安い仕草と言動には、不思議と人の警戒心とか、構えたところを解きほぐしてしまう効果があった。
(フランスのこういうところ、嫌いじゃないけど)
内心で呟いて、アメリカは少しだけ――無理やりに、笑う。

「日本の地雷がどこにあるのかわからないのは、そりゃいつものことだけどさ」
「つーか、実際それっくらいじゃねえの? お前さんが落ち込むなんて」
「それはいくらなんでも暴言だぞ! 俺だって最近のドルの値下がりとか、色々頭が痛いことはあるよ」
「自業自得って言葉知ってるか……こっちまでとばっちり食ってんだ、それは」

軽口を叩き合いながら、まあ上がれや、気安く手招きするフランスに甘えて家に上がり込んだ。
相変わらず、色々なものが雑然と散乱しているように見えて一定の調和が計算されている家だ。部屋の隅で無造作に転がっているワインボトルですら、多分この家ではインテリアの一つだった。
ワインにというかアルコール全般にあまり知識のないアメリカですら知っているその銘柄は、下手をしたら未開封のボトルに千ドル単位で値がつく高級品ではなかったろうか。
……アルコール。アメリカは、自分を落ち込ませているもののことを思い出してしまう。

「……あのさ、今日は君にちょっと聞きたいことがあって来たんだけど」
「まあ待てよ。お前昼飯ってもう食った?」
「ランチかい? そういえばまだだけど、でも」
「ちっとそこ座ってろ。ちょうどこれからメシにするところだから、何か作ってやるよ」
「あ……うん」

少し、らしくない強引さでアメリカを客間のソファに押し込んでフランスはさっさと台所へ姿を消してしまう。何度か目を瞬かせて、けれど男の後を追いかけるのは止めておいた。料理は皿の上の芸術だと断言する彼の『創作活動』の邪魔などしたら、どんな怖ろしい目に会わされるかわかったものではない。

それに、フランスの行動がそれこそ「らしくない」アメリカに対する彼なりの心配りなのだと知っている。
何かと兄貴風を吹かすだけのことはあって、気のまわしかたも小器用な男だった。小器用過ぎて、滅多に誰も気づかない。フランスは随分と損をしているとアメリカは思う。
本人がそれを本気で嘆いている様子は、少なくともアメリカの目には決して映らなかったけれど、彼なら……自分と同じ顔をしたあのきょうだいなら、何か違うものが見えたりもするのだろうか。

彼とフランスは、ときどき驚くほどよく似ているから。
柔らかくて少し癖のある髪質とか、淡いようでいて深い色をした目の色だとか……たとえば自分の誕生日に、集まった人たちに特製の料理を振舞うため台所に閉じこもってしまうようなところが彼らはそっくりだから。

柔らかいクッションを所在無く撫でてみたりしながら、アメリカはぼんやりと客間を眺めていた。収穫の秋を意識してなのか、部屋は小麦色を基調に落ち着いた彩度の色彩でまとめられている。
ふと、部屋の隅、妙にそぐわない空き瓶が転がっているのに気づいたのはそのときだ。

綺麗好きなフランスが、呑み終わった酒の瓶を――宴会明けでもないのに――残しているのは珍しい。
明らかに市販品ではない手書きのラベルもこの家にはどうも不釣合いで、それで余計目に付いたのかもしれない。

手持ち無沙汰にフランスの姿を眺めながら、ここを訪れる直前に会った……そしてここを訪れてみようと思うきっかけになった『彼』の言葉をアメリカはぼんやりと思い出した。


『色々な話をしたんだ。いつもだったら絶対素直になれないようなこととか。
 僕が、じゃなくてあのひとがね。……ねえアメリカ、僕は思うんだけど』


自分と同じ顔をして、けれど全く違う北の国。
気弱な笑みで眉を下げたその顔はいつもと変わらなかったはずなのに、なんだか、どうしてだか、ひどく、

……。
作品名:そういうもののはなし 作家名:蓑虫