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ワインとビールとまけいくさ

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穏やかな労わりを孕むその微苦笑が、確かに己のためのものだと頭ではわかっているのにどうにも感情が追いついてくれない。得意の毒舌も思わずなりを潜めようと言うものだった。
それが結果として、心にもない己の言葉に後悔を覚える未来を避けさせてくれたのだけど。いつものフランスならきっと、明日は雪でも降るのか、などと口にしていたに違いない。

昼間にアメリカの、実に青臭い悩み相談なぞ受け付けてしまったせいもあるのだろうか。
意識の外で妙な具合に入ってしまったスイッチは秋の夜長に戻ることを知らず、目を丸くしたまま唇から零れ落ちた言葉は、だから多分、本心からのものだったと思う。

「ドイツお前……いい男だなあ」
「……何だそれは」

ク、と噴き出して――そう、堪え切れずと言った風情で笑ったのだ、この男が!――ドイツが何本目かのビールを開ける。ポン、と妙に間の抜けた音がして、空気を得たビールが細かな気泡を上げる音。
折角出してやったコップを、ドイツは最後まで使わずに済ますつもりらしい。瓶へ直に口をつけて喉を鳴らす様子はとても『それほど呑むつもりはない』男の姿ではなかったが、いや待て、普段のドイツの呑みっぷりからしてみれば、実に半分以下のペースではないか。これで。これでも。

「人が珍しく素直に褒めてやってんだ、笑うな」
「ああ、悪かった。まさかお前にそんなことを言われるとは思わなかった」
「なんだよー俺は本気だぞー。フランスおにーさんの愛を食らえこのジャガイモ野郎。 わードイツさん素敵ーカッコイイーうほっイイ男ー」
「わかった。素直に感謝するからそう絡むな」
「いーやお前はわかってないね! 俺がどれだけ真剣にこの言葉を口に乗せているのか、ラウルを捨てて変態親父に走ったクリスティーヌちゃんよりもわかってない!」
「……落ち着け。お前が何を口走っているのか全くわからん。出来上がるにはまだ早い時間だぞ。……それにな、フランス」

ドイツにしてみれば、それはフランスの普段の言動を鑑み分析した、当然の帰結であったのかも知れない。
或いはくるくると良くまわるフランスの口車に、概ねいつも乗せられては貧乏くじを引かされていることへのささやかな意趣返しだったかも知れないし、それとも……それとも本当に、一切の他意を含まない『若造』ゆえの素直な言葉だったのかも知れない。

いずれにせよ、ドイツが相変わらず柔らかな苦笑をその顔に乗せたまま、こう言ったことだけが事実だった。


「『いい男』とお前は言うがな。
 それは結局、お前の次に、のことだろう」


…………不覚にも。


「……おっまえは」

不覚にもフランスは、愛娘にも等しいワインを盛大に吹き出しかけた。なんで。
どうして今日に限って、こんな時に限って、無駄に口説き上手なんだお前は!

思い浮かんだそのままを叫んでしまいそうになり、フランスは慌てて口を噤む。
こんな、自分より遥かに年下の相手のことを、素直に認めて降参と諸手を挙げてしまえるほど真っ直ぐな育ち方をしてこなかったのは果たして幸いだったのか、不幸だったのか。
歴史が築き上げたプライドは、自らが折れることを本能で嫌う。たとえ本心の部分では全く違うことを考えていたとしても、……それが本心であればあっただけ、尚更だ。

だってそれではあんまり悔しい。
美しく優しくたおやかな、薔薇の似合う淑女相手ならまだしも。
どうしてこんな無骨で老け顔で機械馬鹿でビールとジャガイモとヴルストがあれば生きていけるような男に。

「当たり前だろ、世界で一番の男前はこのフランスお兄さんだっての。勘違いすんなこのメカオタク!」

ドイツの口元に、仄かに浮かんだままの笑みがどうにも悔しい。
いつもの仏頂面に引き戻してやろうと投げつけた言葉は、今のフランスにできる精一杯の憎まれ口だった。
けれど。

「知っている」
「…………な、っ」

けれどフランスは忘れていた。相手はドイツなのだ。
堅く張り巡らせた要塞になど見向きもせずに、横合いからの一撃を食らわせてくるのが常道の相手。
飽かず繰り返すのが人の歴史なら、何度マジノ線を打ち建てようがこの男を阻むことなどできないのだろう。

「良く、知っている。そんなことは」

顔に血が昇ったのは、体温が上がったのは、未だ半分も空けていないワインのせいだと思いたかった。