待ちぼうけバンパイア
その時の僕は、そろそろ寝なきゃなぁと思いつつカチカチとパソコンをクリックしてだらだらと遊んでいた。
特に目的があったわけでも、面白い物を見つけたわけでもない。
ただ、日曜日も終わりをつげ、明日から月曜日だと言うこの憂鬱な夜中の時間を、ただ紛らわしたかった。
そう、それだけだったんだ。
窓がキュイッと音を立てる。
聞きなれない音に、布団に横になった体勢の僕は窓へ視線を向けた。
そして、その窓の鍵がある部分のすぐ横が丸く切り取られていくのが見えた。
え、ちょっと待って、何これ。
ちょうど拳大の円に切り取られたその部分はカチャッと音を立てて落ちる。
そして間髪いれずその円からにゅっと一本の腕が伸びた。
その手が蠢いて、窓の鍵を探しあてる。僕の目の前でその手は窓の鍵を開けた。
手が役目を果たしたのか、しゅっと引き抜かれたその次の瞬間。
窓がガラッと開く。
「やぁやぁやぁやぁ、帝人くん。今宵も良い月夜だね、ハッピーハロウィン☆
良い子の君にはお菓子も悪戯もどっちもあげよう!」
窓枠に足を乗せて、吸血鬼と思われるコスプレをした臨也さんが現れた。
ミカドハコンランシテイル。
僕が茫然とする視界の端で時計の針が0時43分を告げた。
つまりは、すでに11月1日を指示していた。
「あ、の・・・え?」
どうしたらいいのか分からず僕は固まった。
臨也さんはやれやれと言うように首を横に振り、そんな僕の反応に不機嫌そうに顔をしかめた。
いや、そんな顔されても・・・一体彼は僕に何を望んでいるんだ?
僕の思考回路はショート寸前だ(比喩でなしに)
「いいかい?こんな美形な吸血鬼が美女の血を吸いに現れたんだよ、喜ぶか、もしくは悲鳴を上げるくらいして貰わなきゃ。」
ノリが悪いなあ、と口を尖らせた臨也さんは窓枠から飛び降りて僕の部屋に入る。
あ、土足厳禁なんですけど・・・なんて言う勇気は端から無い。
だいたい『美形な吸血鬼』を辛うじて臨也さんだとしても、『美女』はどこに居るのだろうか。僕には見えない。
「まぁ、そんなぼんやりした帝人くんも可愛いけどね。」
にぃっといつものように口を歪めて笑う臨也さんには牙が生えている。
それが妙に似合っていて不気味だ。
「…臨也さん、大変申し上げにくいのですが…。」
僕がそう切り出すと、臨也さんはおや、と眉を上げた。
「ああ、『血を吸わないで欲しい』って?そうだねぇ本来なら無理な相談だけど可愛い帝人くんのためなら我慢してあげても良いよ。」
僕の発言を聞く前に勝手にそう判断した臨也さんは、「あ、やっぱちょっと待って。」と続ける。
「せっかくだから可愛く許しを請うくらいして欲しいかな、ウルウル上目づかいでv」
臨也さんはニヤニヤと笑って僕の反応を待った。
全然『ハッピー』になりそうもないハロウィンに僕は一つため息を吐く。
て、ゆーか。
「臨也さん。もう、ハロウィン終わってますから。」
僕はキッパリとそう言った。
僕の言葉に少し硬直した後、臨也さんは片手を額に当て、項垂れる。
この人、ハロウィンを11月1日だと思ってたのかな、可哀想に。
と、一瞬だけ同情した。
「嘆かわしい…。」ポツリと臨也さんが呟く。
「え、ええ。確かに嘆かわしい間違いですが、その、誰にでも間違いはありますし…。」
僕は想像以上にダメージを受けているらしい臨也さんに気を使う。
本当にテンション高くても低くても厄介だなこの人。
そっと肩に手を置いて、慰めようとした瞬間、項垂れていた頭がばっと持ちあがる。
おかげで僕は差し出していた腕をすごい勢いで引っ込めることになった。
「なんて嘆かわしいことだろう!」臨也さんは両手を上にあげ、天に向かって仰ぐ。
気持ち悪いほど大げさな動きに若干ヒきつつも、僕は「大丈夫ですから、臨也さん。」と声をかけた。
てか、深夜なんだからもう少し静かにして貰わないと、今後の苦情を受けるのは全部僕なんだから。
「帝人くん、君は大きな勘違いをしているよ!」
ビシッと指さされる。
いや、勘違いはアンタのほうだ。
「俺がハロウィンが10月31日だと知らなかったと思ってるの?」
知ってたなら逆に問いたい、なんで、今夜来たんだ。
「俺は一日中、ずっと待ってたのに!!」
臨也さんが大声で拗ねたようにそう言った。
あ、これ、苦情確定だな、きっと。
「俺は帝人くんがどんな格好で俺のところへ来てくれるのか楽しみにしていたんだよ、狼男か魔女っ子か、吸血鬼にミイラ男、挙句の果てには君のフランケンシュタイン姿まで妄想してたのにっ。」
・・・僕のフランケンシュタイン姿なんて、自分でも想像つかないんだけど。
どうやら臨也さんの言い分はこうだ。
僕が日曜日である31日をフルに使い、朝っぱらからハロウィンコスチュームを着こんで臨也さんの前に現れる。
次に、定番の「トリック、オア、トリート?」と僕が言い(此処は英語の発音が苦手な僕によるカタコトで無ければならないと、臨也さんは力説した)
迷うことなく、臨也さんは『悪戯』を選択、朝からスイートな悪戯を堪能し、お昼までイチャイチャした後、
夜は立場を逆転させる。
臨也さんの華麗なる吸血鬼姿の、「Trick or treat!」に僕はうっとりしながら「お菓子を…。」と。
悪戯出来ないじゃないかと、肩を落とした臨也さんの前で僕は顔を真っ赤にさせてこう言う。
「お菓子という名の『僕』をどうぞ。」
言うか!!!
地球が逆回転をし始めても、僕がそんなことを言う日は永遠に来ないだろう。
だいたい、昼間からハロウィンコスを着た男子高校生とかイタすぎだろ?
妄想というセクハラを受けて、僕はあまりのことにクラリとした。
「でも待てど暮らせど君は来ない。今日が終わり、気が付いたんだ。帝人くんはハロウィンを知らないんじゃないかな?って。」
「いえ、知ってますけどハロウィンを楽しむ気も臨也さんに会う気も無かっただけです。」
苛立たしげに僕がそう言うと、何故か臨也さんは少し目を見開いて嬉しそうに笑った。
なに?今の僕の言葉に喜んだのか?
「もーっ、帝人くんてばコスチュームは着てないけどちゃんと役作りはしてたんだ!『毒舌悪魔っ子』かぁ、それも良いね。」
いやいやいや、力いっぱいの本音ですけど!?
既に終わっているというのにハロウィンマジックにかかった臨也さんは恐ろしいほどのポジティブシンキングだった。
僕がどんな言葉で詰ってもニヤニヤ笑い牙を覗かせる。
「ああ、ほんとにイイね、なんか俺目覚めちゃいそう。もっと言って?」
うっとりとそう言われ、僕はうぐ、と言葉に詰まる。
これ以上変態な性癖に目覚められたらもう付いていけない。
臨也さんは「あれ?もう終わり?」と、不満げに口を尖らせた。
悔しげに唇を噛む僕の前でにーっこりと、臨也さんは笑った。
「ああ、じゃあ今度は俺の番だね?」
ハイ、と目の前にポッキーを差し出された。
僕は反射的にそのポッキーを口に咥える。そうしてから、ん?と思ったが、もう後の祭りだ。
「ソレ、お菓子ね。」
臨也さんはそう言った。
僕ははぁ、と頷く。いまいち臨也さんの真意が読みとれない。
何がしたいんだろう。
特に目的があったわけでも、面白い物を見つけたわけでもない。
ただ、日曜日も終わりをつげ、明日から月曜日だと言うこの憂鬱な夜中の時間を、ただ紛らわしたかった。
そう、それだけだったんだ。
窓がキュイッと音を立てる。
聞きなれない音に、布団に横になった体勢の僕は窓へ視線を向けた。
そして、その窓の鍵がある部分のすぐ横が丸く切り取られていくのが見えた。
え、ちょっと待って、何これ。
ちょうど拳大の円に切り取られたその部分はカチャッと音を立てて落ちる。
そして間髪いれずその円からにゅっと一本の腕が伸びた。
その手が蠢いて、窓の鍵を探しあてる。僕の目の前でその手は窓の鍵を開けた。
手が役目を果たしたのか、しゅっと引き抜かれたその次の瞬間。
窓がガラッと開く。
「やぁやぁやぁやぁ、帝人くん。今宵も良い月夜だね、ハッピーハロウィン☆
良い子の君にはお菓子も悪戯もどっちもあげよう!」
窓枠に足を乗せて、吸血鬼と思われるコスプレをした臨也さんが現れた。
ミカドハコンランシテイル。
僕が茫然とする視界の端で時計の針が0時43分を告げた。
つまりは、すでに11月1日を指示していた。
「あ、の・・・え?」
どうしたらいいのか分からず僕は固まった。
臨也さんはやれやれと言うように首を横に振り、そんな僕の反応に不機嫌そうに顔をしかめた。
いや、そんな顔されても・・・一体彼は僕に何を望んでいるんだ?
僕の思考回路はショート寸前だ(比喩でなしに)
「いいかい?こんな美形な吸血鬼が美女の血を吸いに現れたんだよ、喜ぶか、もしくは悲鳴を上げるくらいして貰わなきゃ。」
ノリが悪いなあ、と口を尖らせた臨也さんは窓枠から飛び降りて僕の部屋に入る。
あ、土足厳禁なんですけど・・・なんて言う勇気は端から無い。
だいたい『美形な吸血鬼』を辛うじて臨也さんだとしても、『美女』はどこに居るのだろうか。僕には見えない。
「まぁ、そんなぼんやりした帝人くんも可愛いけどね。」
にぃっといつものように口を歪めて笑う臨也さんには牙が生えている。
それが妙に似合っていて不気味だ。
「…臨也さん、大変申し上げにくいのですが…。」
僕がそう切り出すと、臨也さんはおや、と眉を上げた。
「ああ、『血を吸わないで欲しい』って?そうだねぇ本来なら無理な相談だけど可愛い帝人くんのためなら我慢してあげても良いよ。」
僕の発言を聞く前に勝手にそう判断した臨也さんは、「あ、やっぱちょっと待って。」と続ける。
「せっかくだから可愛く許しを請うくらいして欲しいかな、ウルウル上目づかいでv」
臨也さんはニヤニヤと笑って僕の反応を待った。
全然『ハッピー』になりそうもないハロウィンに僕は一つため息を吐く。
て、ゆーか。
「臨也さん。もう、ハロウィン終わってますから。」
僕はキッパリとそう言った。
僕の言葉に少し硬直した後、臨也さんは片手を額に当て、項垂れる。
この人、ハロウィンを11月1日だと思ってたのかな、可哀想に。
と、一瞬だけ同情した。
「嘆かわしい…。」ポツリと臨也さんが呟く。
「え、ええ。確かに嘆かわしい間違いですが、その、誰にでも間違いはありますし…。」
僕は想像以上にダメージを受けているらしい臨也さんに気を使う。
本当にテンション高くても低くても厄介だなこの人。
そっと肩に手を置いて、慰めようとした瞬間、項垂れていた頭がばっと持ちあがる。
おかげで僕は差し出していた腕をすごい勢いで引っ込めることになった。
「なんて嘆かわしいことだろう!」臨也さんは両手を上にあげ、天に向かって仰ぐ。
気持ち悪いほど大げさな動きに若干ヒきつつも、僕は「大丈夫ですから、臨也さん。」と声をかけた。
てか、深夜なんだからもう少し静かにして貰わないと、今後の苦情を受けるのは全部僕なんだから。
「帝人くん、君は大きな勘違いをしているよ!」
ビシッと指さされる。
いや、勘違いはアンタのほうだ。
「俺がハロウィンが10月31日だと知らなかったと思ってるの?」
知ってたなら逆に問いたい、なんで、今夜来たんだ。
「俺は一日中、ずっと待ってたのに!!」
臨也さんが大声で拗ねたようにそう言った。
あ、これ、苦情確定だな、きっと。
「俺は帝人くんがどんな格好で俺のところへ来てくれるのか楽しみにしていたんだよ、狼男か魔女っ子か、吸血鬼にミイラ男、挙句の果てには君のフランケンシュタイン姿まで妄想してたのにっ。」
・・・僕のフランケンシュタイン姿なんて、自分でも想像つかないんだけど。
どうやら臨也さんの言い分はこうだ。
僕が日曜日である31日をフルに使い、朝っぱらからハロウィンコスチュームを着こんで臨也さんの前に現れる。
次に、定番の「トリック、オア、トリート?」と僕が言い(此処は英語の発音が苦手な僕によるカタコトで無ければならないと、臨也さんは力説した)
迷うことなく、臨也さんは『悪戯』を選択、朝からスイートな悪戯を堪能し、お昼までイチャイチャした後、
夜は立場を逆転させる。
臨也さんの華麗なる吸血鬼姿の、「Trick or treat!」に僕はうっとりしながら「お菓子を…。」と。
悪戯出来ないじゃないかと、肩を落とした臨也さんの前で僕は顔を真っ赤にさせてこう言う。
「お菓子という名の『僕』をどうぞ。」
言うか!!!
地球が逆回転をし始めても、僕がそんなことを言う日は永遠に来ないだろう。
だいたい、昼間からハロウィンコスを着た男子高校生とかイタすぎだろ?
妄想というセクハラを受けて、僕はあまりのことにクラリとした。
「でも待てど暮らせど君は来ない。今日が終わり、気が付いたんだ。帝人くんはハロウィンを知らないんじゃないかな?って。」
「いえ、知ってますけどハロウィンを楽しむ気も臨也さんに会う気も無かっただけです。」
苛立たしげに僕がそう言うと、何故か臨也さんは少し目を見開いて嬉しそうに笑った。
なに?今の僕の言葉に喜んだのか?
「もーっ、帝人くんてばコスチュームは着てないけどちゃんと役作りはしてたんだ!『毒舌悪魔っ子』かぁ、それも良いね。」
いやいやいや、力いっぱいの本音ですけど!?
既に終わっているというのにハロウィンマジックにかかった臨也さんは恐ろしいほどのポジティブシンキングだった。
僕がどんな言葉で詰ってもニヤニヤ笑い牙を覗かせる。
「ああ、ほんとにイイね、なんか俺目覚めちゃいそう。もっと言って?」
うっとりとそう言われ、僕はうぐ、と言葉に詰まる。
これ以上変態な性癖に目覚められたらもう付いていけない。
臨也さんは「あれ?もう終わり?」と、不満げに口を尖らせた。
悔しげに唇を噛む僕の前でにーっこりと、臨也さんは笑った。
「ああ、じゃあ今度は俺の番だね?」
ハイ、と目の前にポッキーを差し出された。
僕は反射的にそのポッキーを口に咥える。そうしてから、ん?と思ったが、もう後の祭りだ。
「ソレ、お菓子ね。」
臨也さんはそう言った。
僕ははぁ、と頷く。いまいち臨也さんの真意が読みとれない。
何がしたいんだろう。
作品名:待ちぼうけバンパイア 作家名:阿古屋珠