【東方】東方遊神記10
完璧御膳とは、神奈子・諏訪子・早苗の三人が精魂こめて拵(こしら)える、料理・飲み物(この場合は酒)・食後のデザートの全てが揃ったフルコースのことである。このフルコースは薬膳として体にも大変良く、神力も付与されており、身体能力の向上が大いに見込めるのである。おまけにとても美味しい。それはもう舌がとろけ、頬が落ちるほどである。以前にとりが守屋神社に電気エネルギーを利用した道具や設備を設置したり、水源を引いてきたりした際に、そのお礼として振舞われたそれを食べて、余りの美味しさに知らず知らずのうちに涙を流していたという。そして、母親にも食べさせたいと言って、その料理を包んで家に持ち帰ったとか。当然それを食べたにとりの母親も、大絶賛どころの騒ぎじゃないくらいの感動の嵐だったらしい。
因みに、にとりの家族構成は育ての母親である(河童としての)老婆が一人である。にとりはこの母親のことが大好きで、とても大事に思っている。にとりの発明趣味の原点は、母親にもっと便利で、快適に生活してもらいたいというものだった。そして努力が実り、今の地位に至っている。
話を戻す。その完璧御膳の素晴らしさは、当時にとりからさんざんぱら聞かされていたので、文も食べてみたいと常々思っていた。そういう経緯もあって、正直これは願ってもないことなのだが、それでも愚痴の一つも言っておきたいのが今の文の心境である。
「そうやって餌をちらつかせれば、絶対に食いつくと思ってるんですから・・・まぁ、やりますけど」
完璧御膳の誘惑には勝てなかった。
「さすが文、話が速くて助かるよ。それで、文にはマヨヒガに行ってもらいたいんだ。それで、この手紙を八雲 紫に渡してもらいたい。この手紙には、何日の何時にそっちにお邪魔するといったことが書いてあるから、その場で返事をもらってきてくれ。返書じゃなくても、口頭でも良いから」
そういって、神奈子の傍まで来た文に持っていた五つの書状の内の一つを渡した。その五つは皆同じ封がされているが、その中の二通が他の三通よりも分厚い。二通の内一方はかなり分厚く、もう一方は若干分厚いといった感じだ。文に渡したのは後者の方だ。直接迷惑をかけた地霊殿に一番分厚い手紙を渡すとして、やはりこれは幻想郷最古参の妖怪に対する神奈子なりの敬意の表れなのか。
「確かにお預かりしました。ところでこれ、まさか今日中じゃないですよね?」
「さすがにそこまで無茶は言わないさ。他の奴らにも言うけど、明日で構わない。それで、明日の夜・・・そうだね、九時までに返事を教えてくれればいいから」
文に一通り説明し終わると、神奈子は御影に三通の書状を渡した。
「今のを聞いていたと思うけど、もう一度説明しようか?」
各手紙には、それぞれ拠点の名前とその代表者の名前が書いてある。
「いや、結構。神奈子様がおっしゃっていたのと同じことを使者に伝えればよいのですね。心得ました。それで、その最後の一通は誰に頼むのですか?」
そう尋ねる御影だったが、察しがついているのか、顔が少しにやけいる。
「あぁ、この一通は間欠泉騒ぎで一番迷惑をかけた地霊殿に送るものなんだけど・・・これは、椛に行ってもらおうと思っている」
「なっ!?」
さすがの美理もこれは聞き捨てならなかった。
(やっぱり・・・期待されていますねぇ椛)
御影と一緒で文も勿論予測済み。諏訪子も・・・と思ったら、諏訪子はいつのまにか青蛙神と一緒に、彼女を抱っこしたまま寝ていた。
作品名:【東方】東方遊神記10 作家名:マルナ・シアス