彼はしらない
電気を消すのはいつだって彼だった。そしてそれがいつも合図だった。俺は導かれるように目を閉じる。彼はさっき自分できちんとただしたばかりの上掛けを剥いで、ベッドに上がってくる。電気を消されたのなんて今の今だ。いくらなんでもこんな一瞬で眠れるわけがない。それなのに、いつだって彼は訊ねる。
「寝たか、アル?」
答えないときもある。けなげにも寝たふりをする。声に出してノーと言うときもあれば、そうしないときもある。今日は上掛けを奪われて少し冷えた肩をふるわせ、俺はかすかに首を振った。枕に頭を預けたままだからそう動くことなんて出来ない。舐めて濡らしたばかりのくちびるに髪が一筋舞い込んだ。彼はベッドの上で座る位置をただした。そのためにベッドのスプリングがきしんで重心を変え、俺はわずかに手前へと体が傾く。いつの間にか閉じたつもりでいた目を開けてしまっていた。ランプシェードの残像が目に残っている。それを忘れようとするように何度も瞬きを繰り返す。
「寝たか、アル?」
答えないときもある。けなげにも寝たふりをする。声に出してノーと言うときもあれば、そうしないときもある。今日は上掛けを奪われて少し冷えた肩をふるわせ、俺はかすかに首を振った。枕に頭を預けたままだからそう動くことなんて出来ない。舐めて濡らしたばかりのくちびるに髪が一筋舞い込んだ。彼はベッドの上で座る位置をただした。そのためにベッドのスプリングがきしんで重心を変え、俺はわずかに手前へと体が傾く。いつの間にか閉じたつもりでいた目を開けてしまっていた。ランプシェードの残像が目に残っている。それを忘れようとするように何度も瞬きを繰り返す。