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ぐい飲み一杯のしあわせ

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※びたみそ千真奈(内容:とにかくらぶらぶ)
※胸キュンのモバビタ千聖ルートに準拠
※細かいところは目をつぶってください




【ぐい飲み一杯のしあわせ】




「まさか千聖がこんな早よぉ嫁さんを連れてくるとは」
「今日の“お客”は特別にめでたいのぉ!」
「ほー、ほいたら真奈美さんは学校の先生で…」
「まぁまぁ飲みや、飲みやー」

卒業式で晴れて「恋人」……をすっとばして「婚約者」になってから数年。

出会った年の秋の終わりに交わした口約束。
「お前が飲めないなら俺が飲まなければならない」、乾いた風と一緒に私に届いた、千聖君がボソリと呟いた言葉。

―土佐の人間は酒飲みだ。だから連れていくときは、お前の代わりに俺が。

今にして思えばそれは将来を誓う、プロポーズめいた言葉だったと思う。けれど私はそんなことを当時は露ほどにも思わなくて、そして数々の千聖くんの阿呆行動とともにそれを受け流してしまったのだけれど。
それは彼の心の奥底から溢れた言葉だとそのうち知って、そして、それと同時に彼は「実行しない、する気の無いことは口に出さない」人だということもよく分かって。
そんな彼の真っ直ぐさを今、千聖君のお母様の故郷・高知でひしひしと感じている。

「はい!ありがとうございますっ!!」
勧められたお酒を有難く頂こうと、ぐい飲みを手に取る。
「えっと…」こういう時は、左手を添えて右手で返す?それとも逆?そんなことを考えながら、もたもたしながら掌上で持ち替える。

「返杯の礼なんて堅苦しく考えんでもえぇきに」
「お酒と会話を楽しんだらいいんだから」
「そうそう」

元々天十郎君のお家に引けを取らない程の名門・名家である不破家。そこへ嫁いだ千聖君のお母様の実家もというだけあって、正に立派なお屋敷であり、錚々たる方々の集まりなのだろう。けれど、お酒の席というのは不思議なもので、気さくな雰囲気が漂っていた。歓迎ムードに優しい気遣い…、ちらりと横目で千聖君を見ると、普段通りの口をつぐんだ表情には照れが入り混じっているように見えた。

「いただきます」

ピリリと辛口ではあるが、喉を通る瞬間のサラリとした一瞬水のような飲みやすさを感じる。喉を、胸を、するりと通り、胃にすとんと収まる感覚。後味悪さは一切ない。むしろ、「喉を乾かす」のではなく「喉を潤す」かのような錯覚。

「…美味しい!」

思わず、ほぅ…とため息をつく。ぐい飲みの口当たりの良さも手伝って、どんどん進めてしまいそうだ。
両手で包んだ器は、歪な形ながらも、いや、歪な形だからこそ手にしっかり馴染み、土の温かみまでが手に伝わるようだった。ぐいのみの赤銅色は、きっと陽の光の下に晒すと、違う色が浮かび上がるに違いない。とろりとする透明な液体と、目も楽しませる酒器、味はもちろん逸品の皿鉢料理、そして、温かい雰囲気。

「さぁ、もう一杯どうぞ」
「はい!いただきます♪」

そしてどれくらいの回数、繰り返しただろう。“お客”と呼ばれる宴会が開始されてから約二時間、際限なくこの言葉が掛けられ、そして杯が空になるや否や注がれる、このループが延々と続いていたのだ。「どんどん注がれる」という注意は、大げさに言われていなかった…。少し離れたところで捕まっている千聖君も、先ほどから何杯か空けているようだった。

「真奈美さん、このぐい飲みだと小さいな」
「じゃ、こっちで」
一体どこから出したのか(まさか千聖君みたいに背中収納から!?と、一つの可能性が頭を過る)一回り大きな盃を手渡される。
「飲みや、飲みやー」
にこにこ顔で瓶を傾けられる。
ぐい飲みの大きさに少したじろぎつつも、好意を無碍にすることはできない。

「は、はい、いただきますぅ…」笑顔を作って、頂こうとしたその時、

後ろから「…頂戴します」と耳を擽る低い声とともに、手からすっと杯を取り上げられた。そこには憮然とした表情で飲み干す千聖君の姿があった。そして次の瞬間、煽るように喉に流し込まれていった。上下に動いた喉仏に思わず目が行く。

「おおっ!千聖もイケる口だな」
「うまいだろう、千聖君」
「辛口やけど飲みやすいやろう」
口々に飲みっぷりを称えられ、伯父さんの一人が、両手で30センチ間隔を作り「この間会ったときはまだまだこーんなに小さかったのに」と冗談を言った。
「そんなに小さいわけがないだろう」と千聖君が突っ込む横で、「じゃ、真奈美さんはこっちをどうぞ」と、今度は小さめの盃が置かれる。
千聖君のその行動は、親戚一同を飲みっぷりに惚れこませるのには十分だったようで、千聖君のぐい飲みにはどんどんどんどんお酒が注がれていく。
注がれては流し込み、注がれては流し込み。

どれくらいの時間、「お客」の場にいたのだろうか。
胡坐をかいて何かを考えているような千聖を見遣り、「千聖君、だいじょう…」声をかけようとしたところ、「そういえば真奈美さんは…」と声をかけられる。

千聖君は立ち上がり、思い思いの位置で呑み、談笑する親戚を掻い潜り、外に出た。
遠目から見ると全然酔っていないように見えたし、すっくと立ち上がった様子を見る限り、足元もしっかりしていた。
心配には及ばないのだろうが、ちょっと話もしたいところだったので、一通り親戚の方と話をし終えた後、慌てて彼の後を追った。

磨き抜かれた長い廊下は足裏をひんやりと冷やし、そこれは酒や温かい空気の代わりに、しんとした空気が胸を満たす。
トイレにでも向かっているのだろうか、すたすたと普段の足取りで千聖君は廊下を進んでいた。

「千聖君っ!」
「…まな、み?」

…これは…酔っている。

聖帝在学中の千聖君は、どこでも瞬時に眠ってしまうような「眠たがり屋」だったが、そのときの彼に戻ってしまったかのようだった。
いつものムッとした表情の様に、少し皺がいった眉間、とろんとした目、頬全体が赤らんでいるわけではないが、目じりがほんのり赤い。
ほんのり暗い廊下のせいではっきりと見えるわけではないが、首筋も熱を持っていそうに見える。

「千聖君…酔ってる?」

そ、と背伸びをし、首筋に手を遣る。そっと這わせた手の甲が瞬時に熱を感知する。熱い。
千聖君は千聖君で、熱を帯びた首筋に急に私の手が触れたせいか、体をぴくりとよじり、首をすくめた。一瞬すっと眉間にしわが寄り、その時に私は自分の手がひどく冷えていることに気づいた。

「ご、ごめっ…!」
慌てて手を引っ込める。

千聖君は、ふぅ、と聞えるようにため息をつき、長く続く廊下の壁に手を置いた。

「始めから飛ばしてたもんね…」

それに…あれだけ飲んだのは、「私の代わり」。
そんなにお酒に強くない私が酔い潰れないように、という千聖君が守ってくれたわけで…。

なんとも言えない愛しい思いがきゅぅぅぅとこみあげてきて、再度手を伸ばそうとした時。

「…もう…限界だ。」
手を口に遣った千聖君が珍しく神妙に言葉を発する。一瞬、嘔吐し始めるのかと心臓が縮こまった。

「俺は…」

首を横に向け真剣な表情で目を見据えた。
作品名:ぐい飲み一杯のしあわせ 作家名:みろ