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ポッキーデイ【1本足りない】

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「ポッキーゲームをするわよ!!」
「・・・ハルヒ、ただ1が一番多く並んでるからという理由で言われているに過ぎない、お菓子会社が1と似た形状の自社製品を売るためにうたっている宣伝日に踊らされていいのか。ていうかポッキーとプリッツの日は11月11日、あと10日も先だ。さらに言うといくらなんでもポッキーゲームなんてなんのひねりもなくてそのまま過ぎやしないか?」
「うるっさいわねー。年中売られてるお菓子が一日ぐらい注目を浴びる日があったっていいじゃないのよ。関連性がこれっぽっちもないわけじゃないんだからその辺りは寛容な心を持って受け入れるべきだわ。勿論本番が11月11日なのは知ってるわ。今日はプレみたいなもんよね。ポッキーの日なんだからただ食べるだけじゃなくてポッキーにまつわるゲームぐらいするべきでしょ!ポッキーゲーム以外のゲームがあるっていうの?ないでしょ?だからポッキーゲームをするの!」

 正直、俺の反論はことごとくあらぬ方向へと打ち返され、まともな説明もなく、ハルヒ曰く、1の並んだ日にふさわしいゲーム開催と相成った。
 開催と言ったものの、今日は11月1日で正確にはポッキー&プリッツの日ではなく、ハルヒ的認識ではプレビューデイで、今日のポッキーゲームは練習であるそうだ。
 ポッキーゲームにいったいなんの練習が必要だというのだ。
 というか、だ。ポッキーゲームをするって、このメンツでか?

「みくるちゃんがいるんだもん。対戦者募集しちゃったらみんなみくるちゃんに不貞を働くに違いないわ」

 確かに、ポッキーゲームなどという限りなく至近距離かつその距離を0距離にまで縮めることが可能なゲームにかこつけ、朝比奈みくるファンは間違いなく0距離を目指して戦いに挑むことであろう。誰がそんなこと許すか!!
 朝比奈さん自身はそんな自分の身の危険など知らぬようで・・・というかポッキーゲームなるものも知らなさそうだな。危ないですよ朝比奈さん。ポッキーゲームなどという安直かつストレートなネーミングと見せかけてそのゲーム内容は名前から考えつかないほど下心満載なのですから。

「あ、いっとくけど、勿論男女別でやるからね」
「はぁぁぁああ!?」
「当たり前でしょ、あんたがみくるちゃんにハプニングを装って不貞を働かないとも限らないんだからね!」
「待て待て待て!じゃあ何か!?古泉と1対1でやれってか!?至近距離で!男二人で向かい会ってポッキー食えってか!!なんでそんなことしなきゃならねぇんだ!!」
「だーかーらー!ポッキーの日だからよ!」
「普通に食えよ!食べ物で遊んじゃいけませんって習わなかったのかお前は!」
「普通に食べるんじゃただのおやつタイムじゃない!折角の年に一度のポッキー&プリッツの日なんだからポッキーゲームぐらいすべきよ!ちゃんと食べるんだし問題ないでしょ!」
「大アリだ!!」

 結局ハルヒはポッキーゲームがしたいだけじゃないのか?
 お前はおっかなびっくり朝比奈さん相手に存分楽しめるだろうし長門相手ならなかなか緊迫したまさにゲームを満喫することもできるだろうな。
 だが、男女別となると、だ。俺の相手はただ一人じゃないか・・・ゲームどころじゃない。

「ほらっ、文句言わずに始めるわよ!みくるちゃん来なさい!やり方教えてあげる」

 勝手に開始宣言したハルヒは他2名の女子団員と固まって窓際に陣取り、ポッキーを一本取り出して朝比奈さんへのレクチャーを始めた。
 俺はと言えば、唯一の対戦相手である古泉といつものように机を挟まず、俺はハルヒたちに背を向け、古泉はハルヒたちを見ながら、向かい合った。

「ゲームは好きですが、まさかポッキーゲームをする日が来るとは思いませんでしたね」

 対戦相手の古泉は通常営業のイエスマンスマイルで、ハルヒから受け取ったらしいポッキーの箱で遊んでいる。開ける様子の見受けられないその動きは、ゲーム好きのコイツにしてはあまり乗り気でないことを物語っていた。

「ハルヒめ・・・普通こういうのは男女でやるから楽しいんじゃないのか?」

 きっぱり男女別に分けやがって。しかも既にこっちの様子などアウトオブ眼中のようで、初めてのポッキーゲームに戸惑いっぱなしの朝比奈さんを相手にいたく楽しげである。うらやましいこって。

「だからと言って、あなたと他の女性がやっているところを涼宮さんが見たがるとも思えませんがね」
「俺とお前のポッキーゲームやるとこは見てもいいとハルヒは思ったのか」

 しばし沈黙。俺と古泉の関係を思えばコレはかなり意地の悪い質問だとは思う。古泉は遊んでいたポッキーの箱をぱたりと倒し、重みのある溜息でもつきそうな風情で返答した。

「・・・安全牌、なのでしょうねおそらく」
「そういう意味じゃ一番危険だがな」
「安全牌のままでいさせてくださいよ」
「どうかな」

 困り顔で無理なこと言って来やがるから先程の問いかけ同様意地の悪い返答をして、テーブルの上で倒れた箱を手に取り開封した。すると古泉は困り顔のままでイヤな予感がすると言いたげに訊ねてきた。

「まさか本当にポッキーゲームをする気で?」
「しないのか?」
「・・・あなた、さっきまであんなにいやがっていたじゃないですか」
「そりゃ普通、男とのポッキーゲームなんぞごめんこうむりたいもんだからな。いやがる風でも見せておかないとな」
「ずいぶんやる気ですね。てっきり涼宮さんがこちらに関心のないのをいいことにポッキーだけ食べてお茶を濁すかと思われました」
「ハルヒがこっちに関心ないから真面目にするんだよ。おら」
「・・・」

 取り出したポッキーを一本口にくわえて反対側を古泉へと向ければそれでも逡巡した古泉は動かない。
 まったく、ハルヒの望みであるにも関わらずそんなに嫌か。ここは普通嫌がる俺に無理矢理迫ってくるぐらいするとこだろう。
 ふむ、ポッキーくわえてせまってくる古泉か。いいな。いちごポッキー希望。

「あの、本当にするんですか?」
「さっさとやらないと副団長の職務怠慢を団長様に報告するぞー」
「・・・これでよろしいでしょうか?」

 あっさりだな。多少腹立たしくもあるがまあいい。
 今の俺と古泉の距離はお互い先端をくわえているせいでポッキーより短い。あんまり近すぎて焦点が合いにくい。古泉は、恥ずかしいのかなんなのか、普段は自分から距離を縮めて見つめてくるくせに今回は決して目線を合わせようとはしない。俺は古泉を見てるが古泉はポッキーを見ている。まあポッキーゲームをするならそうだよな。

「いくぞ」

 というような開始の合図を多少もごもごしながら言うと、俺と古泉はポリポリと実に地味に食べ進めることを始めた。はたから見たときの不気味さの割にホント地味なもんだ。それだけになんでハルヒたちはああもきゃあきゃあわいわいと楽しそうにできるのかが不思議だ。