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恋文

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あなたに日頃よく叱られました通り、私は少し、自己完結が過ぎるきらいがあるのです。
 それを他の皆さんは勝手だとか、薄情だとかも申されますけれど、私も一々反論するつもりは御座いません。そもそも私は愚図な上に生来の物臭で、己の心の機微についてや、当然言うべき主義主張も、言わずに済ませてしまう癖があります。恐らくそのことも疾うにあなたはご存じでしょうから、今回差し上げたこの文について、少々驚かれるかも分かりません。
 これからここに書き記しますのは、私からあなたへ向けた幾つかの告白です。
 どれも聞いて頂きたいことではありますが、もしも突然の便りの無礼をお許し下さり、全て読み終えた暁には、狸爺の世迷言と一笑に伏して下さいますように。

 偶然立ち寄った温泉町の一角で、旅一座の芝居を観たこと、あなたは覚えていらっしゃいますか。
 夏の初めの温い夜、町の集会所に設けられた野外劇場で、その芝居はかかっていました。
 客席といっても野っ原に粗末な筵敷きという程度のものでしたが、客の入りは上々で、開演を前に席は八割方埋まっておりました。
 私はあなたと夏の宵を過ごす幸福に酔っておりました。けれど、物見高い町人達があなたの風貌を揶揄しているのを聞き咎めたものですから、この様な場所で、さぞ窮屈な思いをなさるだろうと、少々心苦しくもありました。
 しかしあなたは然程気にする風でもなく、周りを真似て大人しく革靴を脱ぎ、上手に胡座をかいて舞台を見上げられました。その静かな横顔に、私は誇らしい気持ちを覚えたものです。
 愛情というものを、人は実に様々な形で現しますが、私にとってのそれは、第一にあなたを敬う心でありました。どんな些細な瞬間にも、私はあなたを愛する心を忘れたことはありませんでした。
作品名:恋文 作家名:サヤ@Leno