【ギアス】シーラカンス・ペイン
何故要求に応えてやったのにこの人は泣きそうな顔で笑うのだろう。ライは肉声では人の名前を基本的に呼ばないようにしている。代わりに必要なときはあだ名を使う。
スザクは「ジャスティス」、ジノは「チェシャ」、ゼロは「ゼロ/フール」 、ノネットには「ストレングス」と、彼なりの使い分けで呼び名を変えていた。
『何故そんな顔をする?』
電子音が消されたパネルに文字が並ぶ。
「ライは「何故」ばかりだね」
スザクは答えを教えてくれなかった。
スザクは重い戦いをしているのだと識った。ナナリー総督と呼ばれるようになった小さな野の姫君の前ではその顔を隠しているということも。ナナリーは不思議な存在として認められているライに普通に好感を持ってくれる稀少な人だ。互いに忙しい中面会を許されることもある。
「ライさん、お隣にどうぞ」
あくまでライの声がいいと拘るため、ライが彼女の隣に席を用意されることになっている。総督と呼ばれるのを嫌うので今までのように「小さな姫君」と呼んでいた。正面にはスザクが控えている。
「ノネットさんはお元気ですか? お身体はどうです?」
手を繋がれ、はっきりしない囁きで答える。いつしか話の流れはライの死んだ家族のことになっていた。恐らく、古来日本では「盆」という風習があったからだろう。
「ライさんは、ご先祖さまをお迎えする信仰についてどう思われます?」
その答えを口にすることはできなかった。
ようやく伸ばしたパネルに文字列が踊る。
察したスザクが目を走らせて、固まった。
『血の祟りなど見たくない』
少しして、「僕の礎となった人には尊敬と敬愛を贈るだろう」と思いついてそう言った。
ナナリーは少し不思議そうな顔だった。
拝謁の時間も終わり、姫君が手を離す。
「そう、最後に」と彼女は言った。
汗が出過ぎています、体調管理にどうぞお気をつけて――
辞した後、目の前を歩いていくスザクについていく。彼の歩みは揺るぎがないので好きだ。しかし、ふと見ている背中が立ち止まった。振り返る。いつもより感情の篭った瞳。
「ナンバレス、絶対的中立でこの世界を記録し続けるもの。……だったね、ライ」
『イエス、スザク』画面に文字が撥ねる。
「ひとつ、以前したお願いを繰り返す」
『?』
ピ、と押して、あまりに真剣な表情にキィから指が離れなかった。
音もなくクエスチョンマークが流れ出る。
作品名:【ギアス】シーラカンス・ペイン 作家名:toco