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【ギアス】シーラカンス・ペイン

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拘束されてタイプができないため、やっと囁く。耳をくっつけるようにしてきた彼女がうんと笑顔で頷いた。
珍しく化粧を変えていると思ったら、それが仕事用の顔だそうだ。
素顔でも綺麗なのにな、そう思った。

ライには特殊な枷がかけられている。
有声音が封じられ、無声音、囁きだけが許されるため彼の発話には欠損があり、聞く場合はとても集中しないといけないというものだ。麻痺に近い。
口唇が読める人間とはそれで通じる。筆談もする。通常は端末を持ち歩き文章で会話をするのがいつものスタイルとなっていた。
ナンバレスとして与えられたのは戦闘ではなく、この治世先々まで伝えられる記録としての史だった。生きている歴史書だ。
C.C.が彼に与えた新たな役割を呑んだのは他に選択肢がなかったからだ。一度死んだこの身はすべてを失った代わりに良い記録紙となろう。愛し我が亡国は過去だ。記憶が戻っても態度を変えなかった彼らを愛しく思った。絶対的中立ですべてを「眺める。」
戦闘でさえも必ず生き残り身に焼きつけることが役割として与えられた。

吐息だけで笑うライをいつしか人は「ウィスパー(囁き)」と二つ名で呼ぶようになった。直の名で呼ぶには恐れ多いと分かるものらしい。「ウィスパーライ(囁き声のライ)」 とかの小さな野の姫君も笑って呼んだ。
基本的に攻撃行動を制限されているライのランスロット・クラブの武器は防御を主とされ、自らは指揮に回ることが多かった。
そもそも指揮を執るのも枢木スザクの補佐の体制が多い。腕を見込まれ使われるものの彼はあくまでデータを記録し続け、存在するはずのないナンバレスなのだ。
『どうして欠陥のある肉声を聞きたがる? 私のタイピング操作と発話では文章を目で追う方が解りやすいのだと思うが』
言葉を選ぶためか慎重な発言が多いライはあまり感情を表に出す表現を使わない。
『何故』
そう聞かれたスザクが答えに詰まった。表情が硬かろうが声が聞き取りにくかろうが聞きたいときはあるものだ。さすがに戦闘時はそんな余裕はないが。
「俺の名前は?」
『枢木スザク』
迷いなく画面に文字が現れる。
「呼んで」
請われ、少し困った表情を見せたライがそれでも退かないと知りマスクを取った。
「ジャスティス」