INTERLUDES
ムーンブルク城に向かうには徒歩しかなかった。
一つ川に掛かる橋を越えた途端、馬が異常なほど魔物の気配に怯える為、馬車はおろか勇猛な軍馬ですら用を為さなかった。
行程は半日ほどもあり、日が落ちる頃に城に着くのを避けるため、出発は深夜と決定された。
うらぶれた街の暗い片隅で、一匹の子犬がうずくまっていた。
鳴き声こそあげていなかったが、小さな濡れた鼻がスピスピとうごめき、その子犬の不安と恐れが如何に大きいかを表していた。
一人の影が人目をはばかるように静かに動き、子犬を脅かさないようにさりげない動きで近付いた。
その男が屈みこみ、子犬を抱き上げても、子犬は不安定さにちょっと手足をもがかせただけで、抵抗はしなかった。
「よしよし」
男の声はひどく若かった。
「いい子だから、もうおうちに入ろう」
子犬だけに聞こえるような囁きで話しかけ、長身の若者は、自分をなるべく小さくしながら、また暗闇へと隠れるように紛れ込んだ。
その街にある防火に備えた貯水池の裏手は、これまで踏み入れる人もない、打ち捨てられた資材置き場となっていた。
今は難民がそこここに溢れており、急ごしらえの小屋が増えるのはけして珍しいことではなかった。
夜の底で、若者が姿を消した先に、新たな灯りが一つ小さく灯されていた。
To be continued……
作品名:INTERLUDES 作家名:page