二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

早朝の浴室・貪る・水

INDEX|3ページ/3ページ|

前のページ
 

「どっち、も」
 潤んだ瞳で赤い顔で、口の端に薄く血を滲ませて、彼は俺を見上げる。怯えるように期待するように震える指が、胸元に置いた俺の手をそっと握る。水を吸ったブレザーの袖が湿っていて重そうだ。
「ほしいです。臨也さんが僕にくれるものなら、全部……ほしいです」
「ふうん? それはまた貪欲なことだ」
 自由なほうの手でシャツのボタンを一つ外し、浮き上がった鎖骨を爪の先で辿る。そのまま首筋へと指を這わせると脈打つ血管の感触。少し指先に力を込めればひくりと震える喉。胸元に置いたままの手のひらの下では心臓が忙しなく動いている。
「……くれる気のないものまでほしいとは言わないんだから、良心的でしょう? ついでに、してる最中に風邪でもひいてください。そしたらほら、僕は目的を達成できて臨也さんは仕返しできてどっちもお得じゃないですか」
「ははっ。転んでもただでは起きないよねぇ帝人君って。そういうとこ面白くて好きだよ」
「あ」
「ん?」
「名前、やっと呼んでくれた」
 深く深く息を吐き出すと同時に、うっすらと膜は張っていたものの溢れはしなかった涙がぼろぼろ零れ落ちた。……随分と手懐けたものだね、俺。
「こういうやり方もあるんだよ帝人君」
 首から離した手を頬へ遣って、切れた口の端に軽く爪を立てる。痛みと、肉の内側に触れられる不快感にだろう、反射的に跳ねる体を押さえつけて笑ってみせる。
「いつものこと、普通、日常、そういうものが崩れると不安を覚える生き物だからね人間は。呼び名一つだってそう馬鹿にできるものではないよ」
 傷口にぷくりと浮き出た血の玉を顔を寄せて舐め取ってついでのように吸い付いた。ちゅ、となんともまあ可愛らしい音が出て笑いそうだ。帝人君の幼げな見た目にはぴったりだけど。

 でも、彼の中身はそんな生易しいものではないということを、俺はよく知っている。これから行われる行為はいわゆる報復で(しかもわりと身勝手な)、肉体的には弱者であるところの帝人君は甘んじて受け入れるしかないわけだけど、それで終わらないのが彼の面白いところだ。
「いざや、さん」
「なんだい帝人君」
「笑い方が物騒です……」
「そりゃこれから物騒なことするからねぇ」
 そしてその「物騒なこと」すら彼は自分の糧とするだろう。彼が作り守り愛している組織が清も濁も何もかもを飲み込んでいるように。
「楽しみだなぁ」
 俺が与えるものを受け止めて飲み込んで自分のものにしている彼は、これからどんな人間になるのだろう。何をするのだろう。今日のように、また俺に可愛らしく爪を立てるだろうか? そんなものでは済まさず、いつかは牙を剥くだろうか? 俺がそうやって生きてきたように。
「本当に本当に、楽しみだよ」

 俺の愛する人間の縮図のような君。餌ならいくらでもあげるから、どうか美味しく育ってくれよ?
作品名:早朝の浴室・貪る・水 作家名:ゆずき