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早朝の浴室・貪る・水

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「これからどうしようかな。やられっぱなしは性に合わないんだけど、単純な暴力ってのも同じくらい性に合わないんだよねぇ」
 でも、帝人君相手ならそれも楽しいかもしれないとふと思い立って、なんとなく頬を打ってみる。乾いた音、徐々に赤くなっていく丸みを帯びた頬、状況を把握できていなかったきょとりとした目に浮かぶ見覚えのある色。うん。
「やっぱりつまらないよね、こういうのって。解り易すぎる」
 体温の戻らない自分の指が、熱を持ち始めただろう彼の頬を冷やすのに丁度よさそうで撫でてあげれば細い体に僅かに震えが走った。ひゅっと息を呑む音がまるで悲鳴のよう。あ、口の端が切れてる。上手い殴られ方、というか、受け流し方? 教えてあげたほうがいいかな。
「肉体的な暴力はね、反応が限定されるんだ。怒るか怯むか。一般的には、何か特殊な訓練でも受けてない限り大抵このパターン。それすら通り過ぎると無反応になる。まあその場合って肉体への耐え難い苦痛による精神の消耗を抑えようとする自衛行動の一種だから、本当に何も感じないってわけでもないんだけど。そうそう、世の中には正気を保たせたまま生命に危険のない範囲で痛みだけを発狂寸前まで与え続ける、なんてやり口がごろごろ転がってるんだよ。怖いねぇ」
 幸運にも、そして俺自身の努力の甲斐もあって、そういった環境に置かれたことはない。俺が直面している暴力はもうずっと、常に死の危険があるものばかり。早く死なないかなシズちゃん。
「君はさぁ、君自身の正義やら信念やらに殉じて行動しているときは、危なっかしいくらい何も恐れないよね。それこそ死に直結するような暴力を前にしても冷静に反撃の機会を窺える。そして、そんな日常からかけ離れた状況にいる自分自身を笑える。興味深い精神構造ではあるけれど、でも、普段の君はそうじゃない。言ってる意味は解るよね? 日常を生きる君はどこまでも平凡な、身を守る術も誰かを傷つける手段も持ってないただの子供だ。少しばかり好奇心が旺盛な、ね」
 そうして彼好みの笑い方をしてみれば、屈辱を感じながら痛みを感じながら恐怖を感じながらそれでも耳まで赤くして見蕩れるという、とても器用な反応を見せてくれた。……ん、面白いから合格。
「こんなのは日常だよねぇ俺と君の間では。自分の欲求を満たすために相手の自由を奪う程度のこと、俺たちの間では覚悟の必要すらない、食事や睡眠なんかと同程度に日常に組み込まれた行動の一つでしかない………だから、駄目なんだよ。日常にいる君では俺の裏を掻くなんてとてもとてもできやしないさ。日常生活において俺に言うことを聞かせたかったら小細工なしでやっておいで。そういう年下には弱いつもりだよ? 時と場合にもよるけど、多分一番確率が高いんじゃないかな。ああ、真正面から自分を曝け出すのが恥ずかしいとか嫌だとか言うんなら、それこそ俺を陥れるつもりでやりなよ。その方がきっと、お互いに楽しめる」
 言い終えて、ずっと押し潰すようにして上半身を圧迫していた足をどかしてやれば途端にぜいはあと荒い呼吸を繰り返す薄い胸。

「で、これからどうする?」
「………え」
「やられたらやり返すって結構重要なことなんだよ。大人気ないだのなんだの言われるけどさぁ、そうやってなあなあで流してるといざってときに本当に必要なときに、反撃どころか自衛の方法すら忘れてるんだ。だからね俺は相手が誰だろうとどんな内容だろうとやられたらやり返すことに決めている。誰彼構わずこちらから手を出していくのは愚かの極みだけど火の粉が降りかかったときにそれを振り払うことも取り込んで利用することもできないようじゃあこんな世界では早死にするよ。人間一人消すのって、それはもう結構かなり大変なことではあるけど、しかるべき手段をとればできないことじゃないんだからさ。俺がね、君くらいの年の頃から社会の裏側に足を突っ込んでそれでもなんとかここまでやってこれたのは、必要なときに必要なだけ牙を剥いてきたからだよ。『こっち側』で生きたいなら君はもう少し、選択肢を増やすべきだね」
「せんたく、し」
「そうそう。ま、これ以上は自分で考えなよ。一から十まで教えてくれる相手なんて余程の馬鹿かとんでもない悪人だ。馬鹿の助言は的外れだし悪人の甘言なんて嘘と欲と利害で満ち満ちてる。どちらにしろそこから自分にとって有益な情報を引き出すなんて芸当、君にはまだできないだろ? それならその出来は悪くない頭を限界まで使ってみればいいんじゃないかな。自分で『限界だ』って思う地点まで自分を追い込んでみるのもある種の訓練だよ」
「はあ。……あの、臨也さんは、つまりこれから僕に『やり返す』ってことですか?」
「うん。そういうこと。選択の自由くらいは残してあげるから、抵抗するなり受け入れるなり俺の関心を逸らすなり、好きにしなよ」
 とりあえずはよくできましたと、猫の子にするみたいに喉下を擦って、くすぐったいのか身を捩られたところで喉仏の辺りをぐいっと押す。細い首だ。嫌だなあ、簡単に折れそう。眼下ではげほごほと、今にも吐きそうな苦しげな様子の帝人君。それを見ながらさてどうしたものかと思案する。
「でもさあ身体に対する直接的な暴力は趣味じゃないし身体への直接的じゃない暴力ってのは君にはまだ酷かなと思うし精神的な方面で責められるネタは今のところ持ってないし………………あ、そっか。ないなら作ればいいか。ねえ、君には教えてなかったと思うけど、過ぎた快楽って結構苦痛なんだよ? そりゃあもう、あれも一種の暴力だからね」
 咳き込みすぎて涙の浮かんだ目が見開かれて俺を映す。発言の内容は理解してもらえたようだ。
「そ、それがっ、なんで……」
 息が続かなかったみたいだ。ほんと貧弱。それがなんで精神的な方面を責めるネタになるのか、言葉の続きはこんなものかな。
「解ってるくせに。それと、しばらく理性飛ばしてやるつもりはないから、せっかくだし存分に冷静に味わうといい。何事も経験だよ」
 シャツの合わせ目から指先を潜らせて直接肌をなぞれば、これからの展開を予想でもしたのか鳥肌が立っていた。
「それともただの暴力の方が好み? それが君の嗜好だっていうのならその程度は譲歩してあげるけど?」
 快楽と暴力なら、必ず選ばなければいけないのなら、ほとんどの人間は前者を選ぶ。帝人君もその辺りの感性はわりと普通だからそう選択すると思ったのに。
作品名:早朝の浴室・貪る・水 作家名:ゆずき