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another world

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その綺麗なひとを見掛けたのは何時の何処が最も初めであったかを、自分は記憶していない。勿体ないと燻る感情は寂しさの訴えを継続する。それこそ癒えない傷のように、何時も何処でも。

日常に固まってしまった都会での通学路も退屈極まりなくて、買い物に行く名目で少し遠方に行く為、幾らかの贅沢を自覚しながらも丁度タイムリーな停車地点に訪れたバスへ乗車した。
自分と同じく帰宅途中にあるらしき制服を着用した学生が数人居て、何となしの安心から気持ちが弛緩する。吊り革は控えめに揺れる。漂う緩い沈黙は現在の夕刻にある気だるさに似合っていて、落ち着きを感じた。
ふと進行方向から外れた奥の座席を向けば、傾いた夕焼け独自の色彩の中に溶け込んでいき、自然と判別出来なくなりそうなひとが視界に入る。
憂うような思考に沈み切った表情は生気を感じられない。一点物の精巧な人形染みた印象である。当然ながらバスに相応しくないが、しかして周囲と異なる雰囲気を継ぎ目なく巧みに仕舞い込んでいるからか、さほど浮き彫りにはならない。
綺麗なものを無意識にも目に焼き付けようとしてしまっていたらしい。恐らく弱くない視線に気付いたそのひとが繊細な面をついと上げて、此方に微笑みを送った。内心意表を突かれたがお辞儀をちょこんと返し、鼻歌を歌いかねないであろう顔を正面に戻した。
いいものを拝見させて貰ったので乗車賃分は回収完了出来たかなと、沈む過程の夕日を浴びながら思った。

記憶をどれだけ潜っても因果はない。幾度も遭遇するようになったと思えば、何ヵ月も見掛けない折りがあった。互いに連れはおらず大抵時間を余しているようなぽっかりと空いた時に、ふと埋まる隙間の隣の隣へと居る。
そして最近どうにも自分を把握出来ず調子が悪い。
道草の気分が湧いては、無性に何処かへと行きたくなり、行き先も定めないまま電車に乗車する。
今頃ホームシックではあるまいが、一人で食事を摂ると味気ない。
いつの間にか足を止めていた公園では、誰かを待ち侘びているような心持ちがする。

例えるなら他人の人生を間借りしているかのよう。自分だけが気付いていなかっただけで、世界は反転していたらしい。
作品名:another world 作家名:じゃく