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嗚咽を殺して泣く子供

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「タカ丸さんが倒れた!?」
同じクラスの勘衛門からそんな話を聞いたのは、お昼前の休み時間のことだった。
「あぁ。今日の実習中に倒れたらしい。俺も三郎から聞いたから詳しい話はよくわからないけど、今は保健室で休んでいるらし…」
「俺、行ってくる!」
勘右衛門が言い終わるより先に、自然と言葉が出てきた。タカ丸さんが倒れたなんて…。恐怖と緊張で鼓動が急に早まる。背中に嫌な汗がにじむ。
「行ってくるって…兵助、お前、授業はどうするんだ?」
「適当に言っておいてくれ!」
授業に出席したところで、どうせ集中できっこないだろう。俺は勘右衛門が止めるのもふりきって、保健室へと急いだ。今はただ、少しでも早くタカ丸さんのもとへと駆け付けたい気持ちでいっぱいだった。

********

「たぶん疲労によるものだと思うよ。あと貧血かな。ゆっくり休めば、すぐ良くなるよ。」
吉野先生が出張中ということで、かわりに保健室の留守を預かっている善法寺先輩は、焦ってやってきた俺をなだめつつ、そう言ってくれた。
「じゃあ、僕は授業あるからここをあけるけど、きみは…」
「お…俺は授業自習だから大丈夫です。」
「そっか。じゃあ、僕の代わりに斉藤くんをよろしくね。」
善法寺先輩はそう俺に言い残すと、慌てて校舎の方へと駆けていった。
嘘だ。本当は自習なんかじゃない。とっさに思いついたいいわけだった。
でも、たとえ嘘をついてでも、今はタカ丸さんの側にいたかった。先生への言い訳は、たぶん勘右衛門がなんとかしてくれているだろう。とにかく今は、タカ丸さんのことが心配で、そのことで頭がいっぱいだった。

「タカ丸さん…。」
保健室の一室で眠っているタカ丸さんのもとへ向かい、すぐ側に腰掛ける。思ったより安らかな顔で寝ていたものの、その顔色は、いつもより悪いように見える。
思えば、この人のこんな顔を見るのは初めてな気がした。この人はいつも、どこかヘラヘラとした笑みを浮かべ、苦労や悩みなんて何もないみたいな顔をしていた。
そんなタカ丸さんを見ては、
「…タカ丸さんはいつも幸せそうでいいですね。」
なんて嫌味をいったりもした。そしてこの人は、俺にそんなことを言われると、
「そう見える?まぁ確かに、久々知くんが側にいてくれるなら、僕はいつでも幸せだけどね!」
作品名:嗚咽を殺して泣く子供 作家名:knt