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moria

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メールを確認した帝人は携帯電話を片手に和やかに言った。電話の向うから響く「了解」という声がいかにも楽しそうに聞こえて、帝人は通話を切る。やることはやった。後は非常時に備えて状況の確認を怠らなければ、それでいい。
壊れかけの街灯にぼんやり照らされたこの場所には帝人と臨也だけが残っている。時折震える携帯が、現在の状況を伝えるメールが来たことを知らせている。
臨也は臨也で、ブルースクウェアとは違う人物からの情報を受け取っているようだった。そういえば信者の子にそれとなく見張らせておくよ、だのなんだの言っていたな、と帝人は記憶を辿る。
「構造は至ってシンプルだ」
ぱちりと携帯電話を閉じて臨也は語り始める。
「黒沼君率いる本隊はあらかじめ袋小路で待ち伏せ。別働隊がルートを絞って、袋小路に誘い込んで蹴りをつける」
「上手く誘導できればいいんですがね」
「そこは彼らの腕を信じよう。疑うばかりが能じゃないだろう?」
断続的に届くメールを追いかけながら帝人は「そうですね」と同意した。再び震えだした携帯をなおざりに開き、おっ、と臨也は楽しげに口を歪めて「帝人君、見て御覧」そう言って帝人の目の前に携帯の画面を突き出した。
「第一段階、クリアだ」
メールに添付された写真には路地に逃げ込んでいく数人の男達と、それを追う不気味な青い帽子の集団。指定の路地に誘い込めたらしい。写真を撮ったのは、件の臨也信者であろう。
「……便利ですね」
感心したように言う帝人に臨也は得意になる。
「便利だよ。見てくれは一般人となんら変わりないしね」
「あ、メール」
結果報告のメールが臨也の弁舌を邪魔した。内容は追い込み成功、という簡素なものだったが続けて指示を出すため帝人の意識はそちらに向かう。
「動画も添付されてるよ」
臨也はひらひらと己の携帯を翳す。先程とは別のメールらしかった。携帯で撮ったものらしく少々見辛くはあるが、怒鳴り声と青い目出し帽はしっかり映されていた。金属のパイプが地面に擦れてわざとらしい音を立てている。目的のあからさまな動きと怒声はデモンストレーションとしては上々だろう。
直後に受信したメールにも『成功』の文字。あとは待ち構えた本隊が相手を挟みうちにするだけだ、と帝人は携帯電話を握り締めた。
今頃は相手方と正面衝突している頃合だろう。
「動画第二弾、見るかい?」
「え、ええ」
ひょっと伸ばされた手には先程と同じく携帯が握られている。「さいせーい」気の抜けた様な声と共に動画が映し出された。走っているのだろう、随分画面はぶれている。いくつかネオンの光が通り過ぎて、唐突に視界が開けた。歩みを止めたらしい。
『あんた達がダラーズにいるのが、邪魔なんだってさ』
「青葉君の声だ」
余計なものを、と臨也は内心で呟いた。青い目出し帽の隙間から、金やら茶やらに染めた派手な髪が見えている。
『てめえが首謀者か!』
一人がいきり立ったように叫ぶ。
『俺じゃねーけど、まあ似た様なもんだ』
対峙している青葉は随分と余裕のある雰囲気である。それもその筈、ブルースクウェアほぼ全員揃っているのに対し窃盗チームはたったの四人である。とんだ数の暴力だ。
『ダラーズの名前使って、随分悪さしてたらしいな。潰されとけよ!』
どっと青い集団が中心部に向かって雪崩込むところで映像は終わっている。じきに帝人の元に連絡が来るだろう。映像とは違い、ここは無音である。無音が気を急かす。携帯をじいと見つめる。秒針の進みがやけにゆっくりと感じられた。見つめていた携帯画面がふと暗くなる。肺から息を絞り出して目蓋を閉じた。
ぶぶ、着信を知らせるように携帯が手の中で震えて、帝人は慌てて通話ボタンを押した。「もしもし?」
「先輩、終わりました」
予想と違わぬ声が聞こえる。
「上手くいった?」
「はい、近所の人が表に出てたんでわざと物騒な言葉使わせときましたよ。すぐに警察が飛んでくるんじゃないですか?」
「君らまで捕まらないようにね」
「ご心配なく。もう全員引き上げてますよ」
軽いエンジン音が電話越しに聞こえた。帝人はほっと息を吐き出す。間も無く白いバンが現れるだろう。行きと変わらない様子で帰って来るであろう彼らが容易に想像できる。折原臨也は悟られないよう小さく肩を揺らした。
広場に戻ったメンバーらから簡単な状況報告を受けて、帝人は「皆御苦労さま」と彼らを労る。メンバーらは一仕事終えた後でも変わらずふざけ合って馬鹿騒ぎをしている。青葉はぼんやり帝人を眺めた。彼は折原臨也に何か吹き込まれなかっただろうか。気をつけろという自分の忠告は受け取って貰えただろうか。茫洋とした思考に件の男の声が割り込んできて、青葉は一気に顔を顰めた。
「あ、そうそう黒沼君」
「なんですか」
青葉は臨也の顔を見る気もないようで、顔を傾けることすらしなかった。臨也はそれを意にも介さず、背を屈めて青葉にそっと耳打ちする。
「人の悪口を言ってはいけません、って学校の先生に習わなかった?」
ぞっと鳥肌が立った。青葉の背後に立つ臨也の表情は見えない。いつものように性悪な笑みを浮かべているのかもしれない。もしくは能面のような無表情なのかもしれない。ただ、どんな表情をしていたところでその恐ろしさ、不気味さは微塵も軽減することはないだろう。
「帝人君、俺はそろそろ帰ることにするよ」
「はい、お時間とらせてしまってすみませんでした」
「いやいや、謝られることじゃないさ」
帝人はにこやかに臨也に微笑みかけている。
「それじゃあ、またね」
見上げた瞳が赤黒く濁って見えて、青葉はぎりりと奥歯を噛みしめた。
にっこりと笑った臨也は悠々とブルースクウェアのメンバーの間を縫って歩いた。はあっと大きく息を吐いた青葉は鮫の群れの中を自在の泳ぐ黒い影を敵意の籠った目で見つめる。帝人はただ薄く笑んでいる。
臨也は人混みに溶け込むように歩く。人間の意識から外れるように、歩調を合わせ波に逆らうこともなく歩く。大通りではまだ大勢行きかっていた人間が、道を一本外れただけでまばらになっていく。何度か道を曲がって到着したマンションの一室に、臨也は機嫌よく足を踏み入れた。
「ただいま。波江、いるー?」
「あんたが待ってろって言ったんでしょ」
気だるげに壁に寄りかかった波江がなおざりに臨也を迎え入れた。片手には青いファイルが握られている。まったく、とぶつぶつ呟きながらリビングへ向かう波江を上機嫌なまま臨也は追う。よく整頓された部屋だった。波江はファイルの沢山収められた本棚へ向かい、手に持ったそれを片づけ、また一つを取り出してぱらぱらとめくり始めた。灰色と黒がちらちら目につく。見ているのは新聞のようだった。
「どうするの、ダラーズなんかに手を貸して」
長い黒髪をゆらゆら揺らしながら波江は臨也に問いかけた。ただし視線はファイリングされた新聞に向けられたままである。
「なんか、とは酷い言い草だね波江。俺はただ自分の所属している組織を良くしようとしてるだけさ」
「ダウト」
「せーかい」
作品名:moria 作家名:nini