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moria

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「やあ」
青空のように爽やかな声が路地に突然響いた。
数人でたむろっていた男らはその声に振り向く。いずれもまだ十代であろう若い面々である。怒りを押し殺したような声が青年らの一人から放たれた。
「んだよテメエ。俺ら今機嫌わりぃんだよ、殺されても文句ねぇだろうな」
明らかに害意を剥き出しにした言葉を受けて、ざりりとアスファルトを踏みしめる音がした。蛍光灯が低く唸る。暗闇から姿を現したのは、黒く長い、端にファーのついたコートを着込んだ眉目秀麗な細身の男だった。極度に露出の少ない服装のせいで、顔だけが白く冴えて見える。
唐突に現れた男に、青年らは苛立ちを隠そうともしない。コンクリートの壁を背にして座り込んでいた数人が立ち上がり、黒コートの男を威圧するように睨みつける。男はといえば至って余裕のある様子でにやにや唇を歪ませていた。それが更に青年らの癇に障る。
「何ニヤけてんだよ、マジで死にてぇかおっさん」
よく見れば青年らは服に隠されていない腕や顔のそこかしこから白い包帯や痣が覗いている。普段ならすぐに暴力にうったえている筈の青年らが未だ男を睨みつけているだけなのはそのことにも一因があった。
「ま、そういきり立つことはない。俺は味方なんだから」
諌めるように男は言う。青年らは不可思議なものでも見るような視線を男に向けた。
「俺は君達が望む情報を持っている。そう、君達をやった相手の情報さ」
青年らはどよめく。この男は何者なのかと。
「テメェ、何者だ……」
警戒心を剥き出しにした問いに、男は一言だけでもって答えとした。
「オリハライザヤ」
悪名高き新宿の情報屋の名前を聞いた途端、青年らはあからさまにうろたえた。それを気にすることもなく臨也は彼らに言い放った。
「君達をダラーズから抜けさせた奴らに復讐しないかい?」



雨だった。
ざあざあ降る雨はただでさえ寒い冬の日を、更に冷たく流れ落ちていく。雪にはならないようである。矢霧波江は仕事場の窓を伝う雨を眺め、ついで鈍い色をした雲を眺め、それから大きく溜息をついた。
「憂鬱だわ」
「俺は楽しいよ」
「あんたの機微なんてどうでもいいのよ」
背後のデスクで頬杖をつく男の言葉を切って捨てた波江は腕を組んで苛立たしげに振り向いた。
「何か企むのは結構。自滅すればいいんだわ。だけどね、あんたのくらだない考えに私を巻きこまないで欲しいの」
顔を不機嫌に歪ませる美人というものは迫力があるものだ。それが仁王立ちでもしていようものなら尚更。しかし臨也は波江の不機嫌さなど意にも介さず、「他に頼める奴がいないんだ、仕方ないだろ」と嘯いた。
「他の奴に頼みなさい。私は降りさせてもらうわ」
おや、と臨也は意外そうな顔で波江を見た。彼女の高圧的な態度を意に介した様子もない。
「波江なら嬉々として乗って来ると思ったんだけどな」
アテが外れたね、と笑う男に、しらじらしいと吐き捨てて波江は窓の外を見た。雨はざあざあ降っている。土砂降りと言っても過言ではない。遥か眼下に見える道路には、赤やら黄やら青やらの、色とりどりな傘が蠢いていた。無性にそれらを潰してしまいたくなった。
「竜ヶ峰帝人を陥れるための一手だっていうのに」
「私はもう関わりたくもないのよ」
「これも仕事だよ、波江サン。私情を挟んじゃいけないんじゃないかなー」
「私情で結構。とにかく、今回の件に私は関わらないわ」
一向に軟化しない態度に焦れたのか、臨也は椅子をくるりと回転させて波江に背を向け、わざとらしく携帯を弄りながら目当ての番号を呼び出した。
「しょーがない、面倒だけどセルティにでも頼もうかな」
「初めからそうなさい」
その言葉すらもう感心がないとでも言うかのように臨也は背を向けたまま携帯を耳に当てて喋り出す。波江も既に臨也に興味はない様子である。ただ苛々と眉根を寄せている。
「やあ新羅。セルティはいるかい?急ぎの仕事でね。いくつか荷物を運んで欲しいんだ、頼むよ」
二、三の言葉を交わして電話を切る。雨はまだ降り止まない。どろどろどろ、と雷鳴が轟いた。
波江は窓ガラスに寄りかかって目蓋をそっと閉じた。雨が降り続けばいいのにと願いながら。腹の底に唸るような音が響いていた。

「雨っすねえ」
「雨だねぇ」
車窓を叩く大粒の雨に、狩沢と遊馬崎は揃って口を開いた。見上げる空は雲ばかりで、月一つ出てはいない。それでも煌々と輝く人工的な光が街を明るく照らしていた。渡草の運転するバンが赤信号を遵守して止まる。傘を差した人々が、まるで群れのように一定の速度で歩いてゆく。
カラフルなそれらをぼうっと眺めながら、門田はとりとめのないことを考えていた。
信号が青に変わる。と同時に渡草が車を走らせる。頭上ではごろごろという音と光が断続的に響いている。暫く順調に進んでいた車は、再びの赤信号に足を止めた。
「また赤かよ、ったく」
渡草が舌打ちをする。つい今しがた赤に変わったばかりの信号は、青になる気配を見せていない。後部座席のオタク二人が、「イライラは体に悪いっすよ?」「そうだよ渡草っち。ストレス溜めちゃだめだよー」などと言っている。渡草は「わかったわかった」とか気のない返事ばかりである。その会話に加わる気もなく、門田は窓の外に目をやる。とっくに閉店した店や、まだ煌々と灯りを点しているビル、カラフルなネオンなどがぼんやり目に映った。
「ねえねえドタチン、なんかあれ、見たことない?」
ふと気が付けば会話から抜け出してきたらしい狩沢後部座席の窓に顔をくっつけている。指さしたのは暗い色をした服を着込んだ青年らだった。ひさしのついた店の壁によりかかって数人でたむろっている。
「いや、知らない顔ばかりだが」
「違うって。右端の鞄から出てやつのだよ」
鞄からは青い布切れが覗いている。脱退したとはいえ元々はブルースクウェアの一員であった彼らである。自分らのトレードマークだった青い鮫の布を間違えるはずもない。
「最近見なかったのに」
「何か、起きているのか?」
じわじわ侵蝕するような嫌な予感が広がっていくのを門田は感じた。青年らは楽しげに喋っている。どこにでもいる青年だった。信号が青になり車が動き出すまで、二人はその一挙手一投足を注視していた。
作品名:moria 作家名:nini