separation
アーサーはそれが悲しいと、彼と出会ってから初めて思った。
「もしまたこうして会えたら、そのときに続きを聞かせてくれますか?」
頬を暖かなものが落ちていく感触がした。
目の前の彼の顔がゆがんで溶けていく。
「……大丈夫。終わらない争いなんて、この世にはありませんよ」
「…菊…」
宝物のように彼の名を呼ぶ。
それが初めて覚えた彼の国の言葉だ。
祈るように、縋るように、…叫ぶように。
「…どうしてこんなことになっちまったんだろうな…」
「……泣かないで、アーサーさん」
頬に触れた彼の手は、ひどく柔らかかった。
それは1933年、春のこと。
それから、アーサーは彼とは会っていない。
1940年9月27日、日独伊三国軍事同盟締結。
そのニュース聞いた日の朝、遠い日の思い出の中で微笑む彼を思い出してまた泣いた。
作品名:separation 作家名:湯の人