恋情/矛盾/欲望
第1章 理由/自覚
非日常に憧れていたのは確かだ。
でも、池袋に来ることに決めたのはそれが決定打じゃない。
それに気付いたのは後からだった。
「高校どこにするの?」
いつも通りのチャットの何気ない会話。
正臣の行く高校の名前を聞いて、「へぇ」なんて返事して、ちょっとネットでHPを見てみて…
そんな行動をするのだろうと思って振った話題だった。
でも、正臣は言った。
「帝人も来ちゃえよ」
来良はいいとこだぜ?
正臣は来良学園のいい所を僕に聞かせた。
池袋のいい所と一緒に。
気付いたら僕は「行く」と返事をしていた。
それからは、親を必死で説得した。
必死で説得しているときも、僕はただ都会に憧れているのだと自分で本気で思っていたんだ。
-非日常-
田舎暮らしが日常の僕には都会暮らしが魅力的に映った。
きっと、それが原因なのだと思っていた。
誰に誘われたのだとしても同じだと。
でも、違っていた。
他ならぬ正臣が僕を必要としてくれていると思ったから。
だからすぐに行くって言ったんだ。
親を説得するだけの情熱を持ったんだ。
魅了されたのは僕の好奇心じゃなくて恋心だったらしい。
それに気付かないままに池袋にやってきた。
そして過ごした。
やっぱりその事実に気付かないままに。
でも、気付いた。
正臣が居なくなるから。
僕の前から去ってしまったから。
心の中に空いた穴が大きすぎた。
自分の正臣に対する感情が恋心なのだと気付かせるくらいに。
いつもの軽口を聞きたい。
寒いジョークに突っ込みを入れて、冷たいと言われて。
あの日常を感じたい。
あんなに憧れていた非日常も、正臣がいないと色褪せる。
日常の大切さなんてわかりたくなかったのに。
非日常に捕らわれて囚われてそれで暮らしていけたならよかったのに。
非日常よりも大切で欲しくてどうしようもないものが出来てしまった。
僕は正臣が帰ってくるのを待ち続ける。
正臣が帰ってきて、居心地がいいと言ってくれる場所を用意して。
正臣が「来いよ」と言ったから。
正臣が居たから。
それだけ。
本当はそれだけで十分だったんだ。