恋情/矛盾/欲望
「帝人先輩、好きです。あなたが今、一緒に居るのは俺です。黒沼青葉です。好きです」
青葉は悲痛な声を出す。
息を整えた帝人が、ふぅ、と息を吐いた。
「知ってる。君は青葉君だ。正臣じゃない。君の告白も本気だってわかったよ」
帝人の声は軽蔑したようでも嘲ったようなものでもなかった。
ただただ、単調だった。平常だった。
青葉の心には帝人の平常な声色を壊したいという願望が生まれていた。
「帝人先輩、気持ちよかったですか?またどうですか?」
だから、今の情事の感想を求めた。再度の要求もしてみた。
「気持ちよかったよ。青葉君がいいなら、またしようか」
帝人の口からは思ってもみなかった言葉が告げられる。
「今度は目隠しなんかいらないよ。青葉君も最中に話しても構わないんだよ?」
青葉は帝人の心情が理解できない。
考えていたことの斜め上の行動を起こす帝人。
それはこれまでの付き合いからわかっていた。
でも、これは本当に予想もしていなかった展開だ。
何が起こっている?
「青葉君、なんで青葉君は金髪じゃないの?」
身体を起こしながら帝人は青葉の髪を触り、そんなことを言う。
彼の想い人を連想させる金髪。
青葉の黒髪はそれとは似ても似つかない。
やっぱり紀田正臣と自分を重ねたいのだろうか、青葉はそう思う。
「帝人先輩が願うなら染めてもいいですよ」
さっきまでセックスしていた相手が青葉だと理解していても、これからも青葉とすると言っていても、やはり好きな人の面影を青葉に残したいのだろうと思い言う。
しかし、帝人は笑顔で青葉の申し込みを否定した。
「ううん。いらない。青葉君は正臣の代わりになんてならないから。なれるはずもないから。正臣は他の誰にも代えられないんだ」
帝人は愛しそうな瞳を空中に投げる。
「帝人先輩」
「なに?」
「最低です。先輩は」
一瞬、帝人はきょとんとした顔をして、いつもどおりの笑顔を返す。
普通の純情な高校生のような顔をする。
「知ってるよ」
普通の高校生の顔をした帝人の顔が青葉には悪魔に見えた。
「これからもよろしくね」
「こちらこそよろしくお願いします。先輩」