下士官の微笑み / DFF?
はぁ。と、誰とも言えない口から深いため息がこぼれ出た。
「えぇ、と、だな…」
「サー・アンジールは黙っていてください」
にっこり、と、擬音さえ聞こえてきそうなほど完璧な〝微笑み〟を浮かべてセシルはアンジールの言葉を両断した。
その押しの強い笑みに、アンジールも思わず押し黙る。彼でさえそんな状態なのだから、事の当事者の神羅が誇る英雄、敵には銀髪鬼だのと恐れられているところのセフィロスは、身体を縮めて嵐が収まるのをじっと耐えるしかない。
とはいっても2メートル近くの大男が身体を縮めた所で大した体積の省略になるわけでもなかった。
「たしか、サー達はこの時間は治安維持部の演習の見学だったはずですよね?」
穏やかな微笑みを浮かべ、穏やかな口調でそう尋ねているはずなのに、何故こんなにも寒いのだろうかと、その場にいる誰もが思った。
「サー?」
どうなんですか?と、わかっているのに確認を取るセシルは意地が悪いのかどうなのかは意見が分かれる所である。
セフィロスと言えば、びくりと身体を震わせた後「その通りだ」と返すのが精一杯である。隣のジェネシスも無言でうなずく。
「そう、そうですよね?よかったです。僕の認識が間違っていたのかと思いました」
真綿で首を絞めるようなやり取りにクラウドは思わず襟元を指で広げるようにして息をのむ。隣に立つスコールはすでに慣れているのか、どうでもよさそうな顔で同僚であるセシルと上司であるセフィロスのやり取りを見つめていた。
クラウドは、ミッドガルから遠く離れた辺境の地、ニブルヘイムから英雄に憧れて神羅に入社したのは十四歳の時だ。
入社して数カ月で英雄と言われたセフィロスの下士官に任命されて早半年。ようやく仕事に慣れてきたかなと、自分でも思ってきた頃のことである。
きっかけは、クラウドと同じくソルジャー・クラス・ファーストのアンジール・ヒューレーの下士官をしているライトだった。
「セシル」
いつも真面目な表情を浮かべている彼であるが、いつも以上に、それもどこか沈痛な面持ちの彼に、名前を呼ばれなかったスコールとクラウドが顔を見合わせる。
本来の主であるセフィロスは、クラス・ファーストのソルジャー達と治安維持部の演習の見学に行っていて、セフィロスの執務室にはちょうどクラウド達下士官しかいなかった。
これは、とにかく仲の悪い治安維持部隊とソルジャー部隊の溝を埋めようと言う一部中間管理職たちの涙ぐましい努力の一環なのだが、残念なことに効果があるとは言えない。
そんなある意味で無駄とも言える恒例行事に出かけた上司の留守を預かっていた三人なのだが、名前を呼ばれたセシルは「なに?」と小首を傾げたあとにライトへと近づく。
「これを」
そう言って差し出されたのは小さなメモ用紙だ。わざわざ渡さなくても内容を報告すればいいものだが、もしや自分たちには知られたくない事なのだろうかと、思った時だ。
メショッと言う何とも表現しずらい音がした。何事かとあわてて音がした方向、セシルへと視線を戻すと、そこにはライトが渡したメモ用紙を握りしめているセシルの姿しかない。
―――メモ用紙を握りしめる時あんな音したっけか?
と言う何とも呑気な事を思っていられたのは一瞬だけだった。
「あの腐れ上司が……」
「せ、セシル?」
クラウドが戸惑ったように声をかけるのを、スコールがその肩に手を置いて止める。肩に置かれたスコールの思いのほか強い力に、クラウドはそれ以上の言葉を止めたが、振りかえる眼差しは不安そうに揺れていた。
それもそうだろう。クラウドにとってセシルと言う先輩は常に穏やかな笑みを崩さず、物腰も柔らかい青年だったのだ。少なくともドスの利いた暗黒騎士もかくやと言った気配を纏う人物ではない。
何か、のっぴきならない事態が発生したのかと、不安にかられたのだろう。
「スコール」
「なんだ」
クルリとこちらを向いたセシルにクラウドはびくりと肩を跳ねさせ。それをかばうようにスコールがそのまだ華奢な身体を後ろへと避難させる。
「すぐさま関係個所に連絡して連携を。僕は金銭関係をまとめるから」
「……了解」
はいこれ。と、手渡されたメモ用紙に視線を落としたスコールは肩をすくめてうなずいた。チラリと、ライトへと視線を向ければ、こちらも強張った表情のまま頷き返す。
「クラウドは……」
「は、はい!!」
スコールが自分の席へと向かってしまったので、防波堤のなくなったクラウド。セシルに声をかけられて思わず直立不動で返事を返した。
そんなクラウドに、セシルは少しだけ驚いたように目を見開いた後、ようやく柔らかな笑みを受かる。
「ごめんね。クラウドは、難易度SSクラスの任務を三十個ぐらいピックアップしてリスト化しておいてくれるかな」
期限が短い順にね。と、セシルはそう言うとライトと共に部屋を出て行ってしまった。
「……えぇと」
「言われたとおりにしておけ」
そのうち理由がわかる。と、戸惑うクラウドにスコールはそう言うと自身の端末に向き直った。クラウドは頷くと、躊躇いながら言われたとおりに難易度SSクラスの任務をピックアップしていく。
その数時間後、セシルと共にセフィロス、アンジール、ジェネシス、それからライトとフリオニールが戻って来たのだ。
「……とりあえず、損失分が穴埋めのためにコレ、お願いしますね?」
クラウドが少しばかり過去へと思いを馳せている間にセシルの話は終わったようだ。彼が差し出すのはクラウドが先ほどまでまとめていた難易度SSの任務である。
「む…」
クラス・ファーストのソルジャーであっても難易度SSはかなり危険だ。通常ならば複数人のソルジャーがチームを組んで事に当たるのだが、セシルはそれを一人で行ってこいと言う。
「その間の事務はサー・ジェネシスにお願いしますから」
安心してくださいね。と、微笑むセシルの背後には「任務拒否の特権、ナニソレ美味しいの?」とでかでかと書かれている。
それを感じ取ったのか、セフィロスとジェネシスはガクリと肩を落とし、アンジールは深くため息をつくのだった。
「で、結局何だったんだ?」
セフィロスをさっさと任務に追い出した下士官たちは、ジェネシスが「本日のお詫び」として持ち込んだ最近ミッドガルで話題のケーキショップのケーキを前にクラウドは首をかしげた。
年頃の少年たちへの差し入れとしてはいかがなものかとも思えるのだが、クラウドやフリオニールには好評である。
「第三演習場大破」
「は?」
カチャリと、優雅な仕草でケーキにフォークを入れたセシルがボソッと呟いた。
切り取られたケーキは白と紫の四層になっていて、一番上にはラズベリーソースと生のブルーベリーが添えられた甘酸っぱいケーキである。
クラウドはミッドガルに来て初めてケーキにもいろいろと種類がある事を知った。――ニブルではケーキといえば基本的にパウンドケーキやウェルシュケーキなどだ。
「えっと、タイハって…大破?」
「修復は七カ月だそうだ」
ライトがクラウドと同じラズベリーケーキを食しながらうなずいた。
「えぇ、と、だな…」
「サー・アンジールは黙っていてください」
にっこり、と、擬音さえ聞こえてきそうなほど完璧な〝微笑み〟を浮かべてセシルはアンジールの言葉を両断した。
その押しの強い笑みに、アンジールも思わず押し黙る。彼でさえそんな状態なのだから、事の当事者の神羅が誇る英雄、敵には銀髪鬼だのと恐れられているところのセフィロスは、身体を縮めて嵐が収まるのをじっと耐えるしかない。
とはいっても2メートル近くの大男が身体を縮めた所で大した体積の省略になるわけでもなかった。
「たしか、サー達はこの時間は治安維持部の演習の見学だったはずですよね?」
穏やかな微笑みを浮かべ、穏やかな口調でそう尋ねているはずなのに、何故こんなにも寒いのだろうかと、その場にいる誰もが思った。
「サー?」
どうなんですか?と、わかっているのに確認を取るセシルは意地が悪いのかどうなのかは意見が分かれる所である。
セフィロスと言えば、びくりと身体を震わせた後「その通りだ」と返すのが精一杯である。隣のジェネシスも無言でうなずく。
「そう、そうですよね?よかったです。僕の認識が間違っていたのかと思いました」
真綿で首を絞めるようなやり取りにクラウドは思わず襟元を指で広げるようにして息をのむ。隣に立つスコールはすでに慣れているのか、どうでもよさそうな顔で同僚であるセシルと上司であるセフィロスのやり取りを見つめていた。
クラウドは、ミッドガルから遠く離れた辺境の地、ニブルヘイムから英雄に憧れて神羅に入社したのは十四歳の時だ。
入社して数カ月で英雄と言われたセフィロスの下士官に任命されて早半年。ようやく仕事に慣れてきたかなと、自分でも思ってきた頃のことである。
きっかけは、クラウドと同じくソルジャー・クラス・ファーストのアンジール・ヒューレーの下士官をしているライトだった。
「セシル」
いつも真面目な表情を浮かべている彼であるが、いつも以上に、それもどこか沈痛な面持ちの彼に、名前を呼ばれなかったスコールとクラウドが顔を見合わせる。
本来の主であるセフィロスは、クラス・ファーストのソルジャー達と治安維持部の演習の見学に行っていて、セフィロスの執務室にはちょうどクラウド達下士官しかいなかった。
これは、とにかく仲の悪い治安維持部隊とソルジャー部隊の溝を埋めようと言う一部中間管理職たちの涙ぐましい努力の一環なのだが、残念なことに効果があるとは言えない。
そんなある意味で無駄とも言える恒例行事に出かけた上司の留守を預かっていた三人なのだが、名前を呼ばれたセシルは「なに?」と小首を傾げたあとにライトへと近づく。
「これを」
そう言って差し出されたのは小さなメモ用紙だ。わざわざ渡さなくても内容を報告すればいいものだが、もしや自分たちには知られたくない事なのだろうかと、思った時だ。
メショッと言う何とも表現しずらい音がした。何事かとあわてて音がした方向、セシルへと視線を戻すと、そこにはライトが渡したメモ用紙を握りしめているセシルの姿しかない。
―――メモ用紙を握りしめる時あんな音したっけか?
と言う何とも呑気な事を思っていられたのは一瞬だけだった。
「あの腐れ上司が……」
「せ、セシル?」
クラウドが戸惑ったように声をかけるのを、スコールがその肩に手を置いて止める。肩に置かれたスコールの思いのほか強い力に、クラウドはそれ以上の言葉を止めたが、振りかえる眼差しは不安そうに揺れていた。
それもそうだろう。クラウドにとってセシルと言う先輩は常に穏やかな笑みを崩さず、物腰も柔らかい青年だったのだ。少なくともドスの利いた暗黒騎士もかくやと言った気配を纏う人物ではない。
何か、のっぴきならない事態が発生したのかと、不安にかられたのだろう。
「スコール」
「なんだ」
クルリとこちらを向いたセシルにクラウドはびくりと肩を跳ねさせ。それをかばうようにスコールがそのまだ華奢な身体を後ろへと避難させる。
「すぐさま関係個所に連絡して連携を。僕は金銭関係をまとめるから」
「……了解」
はいこれ。と、手渡されたメモ用紙に視線を落としたスコールは肩をすくめてうなずいた。チラリと、ライトへと視線を向ければ、こちらも強張った表情のまま頷き返す。
「クラウドは……」
「は、はい!!」
スコールが自分の席へと向かってしまったので、防波堤のなくなったクラウド。セシルに声をかけられて思わず直立不動で返事を返した。
そんなクラウドに、セシルは少しだけ驚いたように目を見開いた後、ようやく柔らかな笑みを受かる。
「ごめんね。クラウドは、難易度SSクラスの任務を三十個ぐらいピックアップしてリスト化しておいてくれるかな」
期限が短い順にね。と、セシルはそう言うとライトと共に部屋を出て行ってしまった。
「……えぇと」
「言われたとおりにしておけ」
そのうち理由がわかる。と、戸惑うクラウドにスコールはそう言うと自身の端末に向き直った。クラウドは頷くと、躊躇いながら言われたとおりに難易度SSクラスの任務をピックアップしていく。
その数時間後、セシルと共にセフィロス、アンジール、ジェネシス、それからライトとフリオニールが戻って来たのだ。
「……とりあえず、損失分が穴埋めのためにコレ、お願いしますね?」
クラウドが少しばかり過去へと思いを馳せている間にセシルの話は終わったようだ。彼が差し出すのはクラウドが先ほどまでまとめていた難易度SSの任務である。
「む…」
クラス・ファーストのソルジャーであっても難易度SSはかなり危険だ。通常ならば複数人のソルジャーがチームを組んで事に当たるのだが、セシルはそれを一人で行ってこいと言う。
「その間の事務はサー・ジェネシスにお願いしますから」
安心してくださいね。と、微笑むセシルの背後には「任務拒否の特権、ナニソレ美味しいの?」とでかでかと書かれている。
それを感じ取ったのか、セフィロスとジェネシスはガクリと肩を落とし、アンジールは深くため息をつくのだった。
「で、結局何だったんだ?」
セフィロスをさっさと任務に追い出した下士官たちは、ジェネシスが「本日のお詫び」として持ち込んだ最近ミッドガルで話題のケーキショップのケーキを前にクラウドは首をかしげた。
年頃の少年たちへの差し入れとしてはいかがなものかとも思えるのだが、クラウドやフリオニールには好評である。
「第三演習場大破」
「は?」
カチャリと、優雅な仕草でケーキにフォークを入れたセシルがボソッと呟いた。
切り取られたケーキは白と紫の四層になっていて、一番上にはラズベリーソースと生のブルーベリーが添えられた甘酸っぱいケーキである。
クラウドはミッドガルに来て初めてケーキにもいろいろと種類がある事を知った。――ニブルではケーキといえば基本的にパウンドケーキやウェルシュケーキなどだ。
「えっと、タイハって…大破?」
「修復は七カ月だそうだ」
ライトがクラウドと同じラズベリーケーキを食しながらうなずいた。
作品名:下士官の微笑み / DFF? 作家名:まさきあやか