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雨が助けてくれない

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池袋の雨夜に身を浸す。春のぬるんだ空気に似合う冷たい雨だ。こんな日は女の子のベッドでつま先までぬくぬくあっためてもらうのが一番なんだけど、生憎そういう気分でもない。コンビニで買ったビニ傘をくるりと回してネオンの下を歩く。三万円はホテルへのチップ代わりに置いてきたので(嘘です服着て出たら忘れてきちゃいました、正臣うっかり)傘を買ったら所持金はゼロに限りなく近づいた。真っ直ぐうちに帰るしかないのに、そうするのも嫌だった。ざあああああああ、ざああああああああああああ、ああ煩い煩い。止まないノイズのせいで上手く感覚がつかめず、何度も人や物にぶつかった。一人の部屋ではあの音が、水の音が、きっと耳から離れない。夜の中で一人きり、どこへも行けない。
そしてこんな時に一番会いたくない人が、蛇のような笑顔を浮かべて、ビルとビルの間の暗闇に浮かび上がっていた。濡れ羽の黒髪、傘も差さずにコートのフードを被った線の細い立ち姿。男の形をした影は、ひょいと気さくに手を上げて隙間から抜け出ると、俺の行く道を通せんぼする。通行人が面倒そうに俺たちをよけて、川の新しい流れを作っていく。
「やあこんばんは正臣くん」
「……チワッス」
「っはは、どうしたの、世界の絶望みんな集めたみたいな顔して」
「や、普通っすよ」
心配の皮を被ったその実ひどくたのしそーう、な、音楽めいた声色に、腹の中の溶岩が沸き立つようにふつふつと音を立てる。だけどそれをじゅうと鎮火して、俺はお商売用、女の子にしか見せない特別性の笑いを作った。外壁にして砦、守りはカンペキ。それぐらい用心しておかないと、痛い目を見るのは自分だ。
「へえ普通普通、普通ねえ。最近の子はみんな何でも普通って言うよね。便利な言葉だ」
そっか普通か。ハハハ。何が楽しいんだかわからないテンションで臨也さんが笑う。そのうわべの笑い声に、胃の底が石を投げ込まれたようにぎゅっと重くなった。ざあああああああ、ざああああああああああああ、ざあああああああ、ざああああああああああああ、俺はもう水の中にいるみたい。ほとんど何も聞こえない。やおらぬるぬると、また肌の上に脂が浮いてきたような気持ちになって、気がついたらシャツの上から痛いぐらい腕を擦っていた。
「すんません、ちょっと野暮用なんで、失礼します」
作品名:雨が助けてくれない 作家名:ゲス井