二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

雨が助けてくれない

INDEX|3ページ/3ページ|

前のページ
 

さっさと退散して一人でいたかった。こんな最低最悪の気分の時に一緒にいたい相手ではない。それどころか元気が有り余ってる時でも、この人と会うと生気が吸い取られるような気までするのに。軽く頭を下げて踵を返す。
「ちょっと待って」
だけど、その声で足が止まるのだ。
「腕、粉吹いてるよ」
その場にピン止めされたように動けないでいる俺の二の腕を、はっしと後ろから掴まれて、逆の手で無遠慮に触られる。シャツを捲りあげて、知らないくせにさっき液体が落ちたところ、俺が特に洗って洗って洗い尽くした軌跡を、正確にたどっていく。彼の触り方は肌の表面をじわじわと焼いていくような、粘っこいそれだった。長くて関節の出っ張った、大人の指がしつこいほど、熱を煽るやり方で欲望を掻き立てるぎりぎりのラインをなぞる。男の作り出す灼熱が肌の表面にこびりついた脂を燃やして、誰にも見えない炎が揺らめいた。
「うちに来なよ。薬を塗ってあげよう」
寒いのでない鳥肌が、波のように立つ。臨也さんは俺の返事を待たずに俺を追い抜いてすたすたと歩き出し、その軽やかなミュージカル俳優めいた足取りに、俺がついてこないという選択肢は含まれていない。俺はきっとさんざ迷ったあげく、ハメルンのバイオリン弾きよろしくふらふらとついていって、本日二度目のいけない遊びにふけることも、それが表面だけじゃなくて身体の芯に火をつけることも知っている。優しくされたいだけの衝動が情動がこのつま先に鼠径部に内臓に瞼に詰まっていて燃料になる。
ざあああああああ、ざああああああああああああ、ざあ、ざ、ざざ、ざ、正臣くん、おいで、臨也さんが話すときだけクリアになる聴覚に気がついた時、びゅうと吹いた風に手が緩み、傘が飛んだ。ざあああああああ、ざああああああああああああ、雨粒は身体を濡らすけど、触れられたところは火傷したように熱い。本当なら火をつけてこの肌を濡らす水さえ焼き尽くしてほしいけど、この人はきっと種火だけくれてくすぶっただけの俺を放り出す。全部全部わかっているのに、雨はこんな時だけ俺を助けてくれない。
作品名:雨が助けてくれない 作家名:ゲス井