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ポストにぎっしりと詰まった手紙に紙束。
中身は見なくともわかるので、少女は手に取らずに惨状をじっと見つめる。
これで何日目だろう。
取りだしたその次の日にはもう紙で埋まっているポストに少女はため息を吐いた。
(気持ち悪いなぁ)
ぱたりとポストを閉める。
もう中身を取り出すのすら億劫だ。
正直触りたくもない。
しかしこのまま放っておいても多分現状は変わらないし、むしろエスカレートしていくだろうと少女は本能的に感じていた。
「・・・・どうしよう」
一人の空間にぽつりと落ちた呟きは僅かに震えていた。







****



玄関を開けたら悪友の妹であり、臨也が『特別』愛してやまない少女がちょこんと立っていた。



「すみません、突然お邪魔して」
臨也から珈琲の入ったカップを受け取りながら、帝人は申し訳なさげに告げた。臨也としては突然の訪問にはびっくりしたものの(しかも挨拶よりも先に「ご相談があります」と言われたし)、少女の訪問は迷惑どころか進まぬ仕事で苛ついてた心を一気に浮上させるものであったので、十人中十人の女性が黄色い悲鳴を上げそうな笑みを端正な顔に敷いて「帝人君ならいつでも大歓迎だよ」と応えた。
「新羅がまた何かやらかしたの?」
「・・・いえ、今日はちょっと」
「ちょっと?」
言い淀むなんて珍しいなと首を傾げれば、帝人は大きな眸を僅かに伏せた。そうすると同じ年の子よりも幼くあどけない顔が可憐に見えて、不意打ちに臨也はどきりとする。有り得ないと笑われそうだが、臨也はこの8つも下の少女に想いを寄せているのだ。性格はよろしくなくても、顔は良かったので、女性関係については引く手数多な臨也だったが、少女と出会ってからはその不実さもぱったり止んだ。友人知人は天変地異の前触れかと恐れ慄いていた。失礼な。
それだけ本気なのだと周りにも、本人にも知らしめたかったのだ。しかし、残念ながら意中の少女には未だ想いが届いていない。彼女を溺愛する悪友やその同棲相手の妖精の邪魔は当然だが、臨也にとって苦々しいのは天敵も少女を気に入っているという事実だ。
(ほんと死ねばいいのに)
知らず眉間に皺を寄せていた臨也に、「あの、どうかしましたか?」と少女の気遣わしげな声が届く。
「ああ、ごめんごめん。ちょっと脳筋馬鹿死ね地獄に堕ちろな奴のこと思い出して不快になっただけだから」
「・・・・・それについてのコメントは控えます」
はあっと疲れたため息を吐く少女を眺めながら、臨也は「それで?」と声を掛ける。訪問の理由である『相談』の件を促しているのだと悟った帝人は、持っていたカップをテーブルに置いた。そしておもむろに足元に置いてあった鞄を探り、厚さ5センチはあるであろう紙の束を取り出した。
「相談というのは、これのことです」
帝人から受け取った紙をぱらりと捲っていく。1枚、2枚、進むに連れて、臨也の眉間の皺が増えていく。そして最終的には、天敵と対峙しても崩れない笑みを完全に消し去った臨也の無表情の顔が出来上がっていた。
「・・・・何時から?」
「3週間前ぐらいからです」
「実害はこれだけ?」
「・・・電話もあります」
「固定?携帯?」
「固定のほうです。携帯には、今のところそれらしいものは掛かってきてません」
「・・・・ふぅん」
「臨也さん?」
「ああ、ごめんね。それで帝人君は3週間もこれを放置してなおかつ誰にも相談しなかったんだね」
「うっ・・・、それは、・・・ここまで酷くなるとは思っていなかったんです」
「ストーカー被害者は初めはそう思うらしいよ」
「・・・・やっぱりこれはストーカ―なんでしょうか」
「内容を見る限りはね」
愛の言葉が隙間なく埋められた手紙に帝人の行動をまるで日記のようにしたためたものから、盗撮としか思えない写真。第三者である臨也でさえ不快に思うそれを、当事者である帝人は一人耐えてきたのだ。早くに相談してくれなかった帝人への呆れと気づくことのできなかった自分への苛立ち、そしてストーカーへの嫌悪で内心渦巻くのをおくびにも出さず、帝人に向けてにこりと笑った臨也は持っていた紙をテーブルの上へと放り投げた。
「その様子だと新羅には言ってないみたいだね」
「・・・はい」
「俺が最初?」
「臨也さんなら、冷静に相談に乗ってくれそうだったので」
「冷静に、ね・・・」
「?」
本当は腸が煮えくり返りそうなほどの殺意を抱えているのだが、面の皮の厚さで少女には伝わってないらしい。安堵する半面、少しだけ残念とも思う。
(帝人君の中で俺ってどういうイメージなのかな)
聞いてみたいような聞きたくないような。―――恋する男は何時だって臆病なのだ。
「まあ、新羅に言うと速攻で一人暮らし辞めさせられるもんねぇ」
「そうなんです。せっかく説得して一人暮らしできたのに・・・」
恨めしそうに紙の束を見る帝人に、臨也はくすりと笑みを零した。一人暮らしをするまでの過程は臨也も知っている。過保護な兄と妖精が世の中の物騒さを訴えても、帝人は頑として頷かずに一人暮らしを望んだ。その背景には、大好きな二人の邪魔をしたくないという妹心があったのだが、それは相談を受けた臨也しか知らないことだ。長い時間を掛けて何とか説得でき、新羅は妥協案としてセキュリティのしっかりしたアパートに住むということを約束させたのだが、電話番号が発覚されてる時点でセキュリティのセの字も生かされていない。管理者後で引き摺りだしてやると心に誓いつつ、臨也は帝人へと向き直る。
「それじゃあ俺はどうしたらいいかな」
「どう、とは・・・?」
「下劣極まりないストーカーを探し出して制裁を加えるべくどっかの人体研究所に預けるのか、それとも怒れる静ちゃんの前に放り出すか、抗争地帯にでも丸裸で蹴飛ばすか」
「いえいえいえそこまでしなくてもいいんですが・・・!」
「そこまでって、これは序の口だよ?れにこういう輩は逆恨みするのが殆どだからね。やるからにはそれすらできないほど叩きのめして擂り潰してやらないと」
「・・・・臨也さんもしかして怒ってます?」
「さあて、どうだろう」
(君に愛を語るなんてそれこそ百億光年早いって話だよね)
「とにかく、君がこれからも一人暮らしを続けたい、そして新羅とかにも秘密にしたいっていうならこの件俺に任せてくれないかな」
「でも僕、学生の身分なのであんまりお金無いですよ?」
「ははっ、俺が友人の妹からせしめるほどお金に困ってるように見える?」
「臨也さんほど無償が怖いひとはいません」
「・・・言うね。じゃあ、こうしよう。俺がこの件を完膚無きまで隠蔽して尚且つ後腐れなくするから、君は、そうだね、一か月位俺にご飯作るってことで」
「ご飯ですか」
「そう。最近外食続きで飽きてるんだよね。料理は得意だと聞いているよ、新羅に」
「・・・・そんなのでいいんですか?」
「それがいいの」
好きな子の手料理を食べられるなんて、男としては破格の行為だ。片想いをしてる相手なら特に。
「じゃあ、材料費は僕が出します」
「それもいいよ。二人分出すのは大変でしょ」
「二人分ですか?」
「俺と、君の分」
「え、」