2.ヤドンの井戸
運搬係に紛れたアラシの伝言が功を奏したのか、
休憩に出ていったブリーダーの数は着々と減っていった。
ツブラの回した手紙も、何度か人づてにツブラへと戻ってきたりして
殆どのスタッフに話は通じたらしい。
もう少しで休憩だろうか、ポケギアにちらりと目を向け、汗を拭くツブラの目に
同じくスタッフエプロンをつけた少女が、ケージの近くで手招きしているのが見えた。
「ねえ。あの噂ほんと?」
近づくと、そのポニーテールの少女は、か細い声で耳打ちしてきた。
あまり人づきあいをしないツブラだったが、
確か最年少でプロジェクトに参加していたピクニックガールだったと、辛うじて記憶に残っていた。
最初の仕事が頓挫したと信じたくないのか、不安に肩を縮こまらせている。
ツブラは彼女を勇気づけようと、手を握ってやってから、声を潜めた。
「わからない。だけど、私の塾の先生と友達が教えてくれたから、確かだと思う」
「あなたがあの手紙回したんだよね。
わたし、どうしよう……」
ツブラは手近なヤドンを2匹少女に押し付けると、
自分もエプロンの下にもう何匹か抱え
「少し早いけど、行こう。廊下の一番奥の出口だから」
と、こっそりケージの外へと踏み出す。
少女の顔が、ぱっと華やいだ。
「わかったわ。どうもありがとう…全部教えてくれて!」
一転して悪意に満ち満ちた少女の声色に、思わずツブラは後ずさる。
が、胸に抱えたヤドンのおかげでなかなか見動きがとれない。
黒服に身を包んだスタッフ達が、あっという間にツブラの周りを取り囲み
残っていたブリーダー達がどよめきが井戸の中にこだまする。
「スタッフさん!こいつが、裏切り者ですっ!」
井戸の中に、勝ち誇った少女の声が高らかに響いた。