秋闌
「……政宗様、……それは一体、どういう……」
「Ah? だから、真田幸村に"一杯食わせてやる"っつっただろ、Are you following me(ちゃんと聞いてんのか)?」
ああ、と小十郎はようやく気づいた。そういうことか。
思わず笑みを浮かべると、政宗は怪訝な顔で見上げてくる。
「なんだよ、変な顔しやがって」
「いえ。政宗様がまた何か良からぬ悪戯でも思いつかれたのかと、肝を冷やしておりましたゆえ。小十郎の勘違いで、よう御座いました」
「――――言ってくれるじゃねえか、小十郎……」
一瞬、政宗は表情をひきつらせた。
しかし、握りしめていた手の中のごぼうをかざして、目を細める。
「……まァ、いい。今日はこれの出来に免じて、聞かなかったことにしてやるよ」
「なにやら、ずいぶんと御機嫌ですな、政宗様」
真田の事といい、今の事といい、常の政宗ならもっと激情を露わにしているだろう場面だというのに、大分手緩い。
小十郎がそう伺うと、まぁな、と政宗は空を見上げて目を眇めた。
「こっち来て、だいぶくつろげたからな。気持ちに余裕ができたんだろ。天を喰らう独眼竜も、今なら寛容だぜ」
「然様ですか」
「……Thank youな、小十郎」
さり気なく、政宗は謝意を口にした。
小十郎はそれに対して、いえ、と声としては小さく、頷く程度の返事をする。
互いに互いの心中は知っている。気遣いも労いも拠り所としての安らぎも、互いの中にあることを知り尽くしている。
だから今更のそれを蒸し返して、わざわざ質すなど野暮なだけだ。
小十郎は、敢えて、話を戻した。
「政宗様。虎の若子には、何を食わせてやるおつもりで」
「そうだな……」
思案する政宗の肩に、風に舞った落ち葉が一枚、飛んできて張り付いた。
濃紫の羽織に一点の秋模様。
それを摘み上げ、粋だと竜は笑う。
「……まさに秋もたけなわ、だな。せっかくだ、奥州と甲斐の饗宴、きんぴらと栗飯でも作ってやるかァ」
彼の手の中でひるがえった落ち葉は、その秋の膳を飾るに相応しく、鮮やかな紅に色づいていた。