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兎の皮を被った化け物2

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 ああ、そうだ。アレンはいつもどこか人の感情に疎かった。
 それは長く生き過ぎたせいだと、クロスは思っていた。他の人間たちとは余りに異なる生の在り方に問題があるのだろうと、思っていた。だがそれはクロスの希望のようなものでしかなかったのだ。
 アレンは感情に疎いのではなかったのだ。感情を、捨て去ってしまっていたのだから。

「でも最近、どうにも調子が悪くてね。ふとしたときに、消えた感情の片鱗が表れるようになった。伯爵は14番目であったころの僕に会いたいみたいで、色々とちょっかい出してくるし。どうやら長く封印してきた過去が、表に出たがっているらしい」

 どこまでも研究者の口調で、アレンは語り続ける。
 逃げることのできない真実を容赦なく明らかにしていく。

「封印したものが表に出たとき、今の僕という存在はどうなるのか。それは、まだ誰にも分からない。そして誰にも分からないことほど興味が沸いてくるものだろう?僕はこの部屋に閉じこもって、自分の変化を日々書き記している。自分の様子を常に監視カメラで録画している。これから先何がおこるのか、全く予想がつかないんだよ。箍が外れる日を思うと、楽しみで楽しみで!」

 あはははははは!と軽やかに笑い出す姿は、もはや狂人の領域だ。
 自分の存在が塗りつぶされるかもしれないという現実を前に、アレンはどこまでもそれを楽しんでいる。
 その現実が、クロスにどれほどの恐怖と絶望を与えるかなど、知りもしないで。

「ねえクロス、お前もそう思うだろう?」

 満面の笑みを浮かべる、それこそが既にパンドラの箱が開く予兆であるなどと誰が知るだろうか。
作品名:兎の皮を被った化け物2 作家名:神蒼