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ふわふわタイム。

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帝人は苦学生である。
無理言って東京に来た手前、貰う仕送りの中で色々とやりくりしなければいけないのだが、やはりそれだけでは健全な高校生活は送れない。むしろ生活はぎりぎりだ。
なので、帝人は高校とアパートのちょうど中間辺りにあるコンビニでバイトをすることにした。






「ありがとうございましたー」
棚に補充をしながら出ていく客に声を掛ける。マニュアル通りとよく言われるが、ないよりはマシだろう。挨拶は基本だと帝人は思う。例え目線は向けなくてもだ。また自動ドアが開き、お客様の存在を知らせる音がした。くい、とレジの方に頭を向ければ、何人か並んでいるのが見え、帝人は補充を一旦中断しレジに入った。ぴぴっとレジを操作して、「御待ちのお客様どうぞー」と声を掛けた。最初はぎこちなかったレジも慣れれば軽快だ。店長からは「若いから呑み込み早いねぇ」と褒められた。夜遅くなるのはきついけど楽しいなぁと結構充実したバイト生活を過ごしている。
(それにある程度来る人の顔も覚えてきたし)
人間観察が趣味という人が居るが、その気持ちが今ならわかる気がする。夕方は学生、仕事帰りのサラリーマンやOL、たまに家族連れ。夜が深くなってくると、ホストやホステスみたいな人や酔っ払いに、ちょっと変わっている人とか。本当に東京という街は色々な人がいるもんだと帝人は最後の一人を見送る。
さて、補充に戻るかなと帝人が動きかけた時、また来客を知らせる音。すると横で同僚が「ひっ」と声を上げた。何だろうと帝人が視線を上げると、そこには夜なのにサングラスな金パツ頭のバーテン服を着た男が立っていた。一見、どこぞのバーテンダーかと思われる男は、実はバーテンダーでもましてやホストでもなく、借金をこさえた人間をとっ捕まえるちょっと恐い取り立て屋をしており、そして帝人は住む池袋、いや東京では知る人ぞ知る『喧嘩人形』という異名を持つ男だ。
男を切れさせたが最後、標識もしくは自販機が空を舞う。もちろん噂でなく事実である。そんな危険物のレッテルが貼られている男が店内に入ってきた途端、中に残っていた客がこそこそと出ていくのを帝人は視界の端で見た。隣のレジに居た同僚もあたかも休憩だと言わんばかりに奥へと逃げていく。おいおいと思いながらも、帝人は目の前に立つ喧嘩人形に、営業用ではない笑みを浮かべた。
「こんばんは、平和島さん」
「・・・おう」
サングラスの下でやんわりと細められた目に気付いた帝人はますます笑みを深める。実は帝人と喧嘩人形はちょっとした知り合いだった。出会いの話は今は割愛するとして、触らぬ神に祟りなしのごとくの男に帝人は極めて友好的だ。それは切れやすく乱暴者で化け物並の力を持つ男が、本当は穏やかで優しくて大人なひとだと知ったからにすぎない。あと、帝人の感性がちょっとだけずれていることも理由のひとつだ。何せ帝人は都市伝説に出会ったときでさえ、恐れるどころか笑うことのできる子供なのだ。
「お仕事の帰りですか?」
「ああ」
店内に客もいないので、暫しのご歓談。大人の男という名に相応しい低いけれど透る声が耳を擽る。
(僕も一応声変わりはきたけど、ああはなれないだろうなぁ)
声フェチの気持ちがわかるような気がすると帝人は思う。
「お前も勉強との両立大変だな」
「成績上位維持もここに居るために親から出された課題ですから。少しきつい時もありますけど、楽しいから大丈夫ですよ」
「そんなもんか」
「はい、平和島さんともお喋りできますし」
「っ、」
「?平和島さん?」
「・・・や、何でもねぇ」
いきなり顔を背けられ、帝人は首を傾げる。心なしか赤い彼の顔に、もしかして暑いのかなぁと帝人は冷房のスイッチを見た。設定温度は寒いくらいだ。帝人の仕草に気付いたのか、「なんでもねぇから気にすんな」と静雄が言うので帝人はとりあえず頷く。「暑かったら言って下さいね」と言ったら微妙な顔をされた。何故。
「あ゛ー・・・、その、お前ちゃんとメシ食ってるか?」
「食べてますよー。賞味期限切れのお弁当とか貰えるんで、最近豪華です」
「コンビニ弁当かよ・・・俺も人の事言えねぇけど」
呆れた顔、でもすぐに笑ってくれる。この時間が帝人はとても好きだ。普段は時間の合わない二人が他愛もない話ができるこの時間が。このひともそうだといいなぁと思いながら、帝人は新商品のプリンを薦めてみることにした。
作品名:ふわふわタイム。 作家名:いの