ふわふわタイム。
静雄は元来平和主義だ。
できれば穏やかに過ごして生きたいと思っているのだが、沸点の低さと対人関係の不器用さゆえ、残念ながらそれも縁遠い。―――と思っていたのだが、最近そんな時間が静雄の中にひょいとできて殺伐とした日常を癒してくれるようになった。
「こんばんは、平和島さん」
そう言ってにっこりと笑う一見中学生にも見える高校生、竜ヶ峰帝人が静雄の日常に生まれた癒しだ。
「コンビニのデザートは高いですけど、美味しいからついつい一品買っちゃうんですよねぇ」
ほえほえと笑いながら商品の補充をする帝人の横に立ち、そうだなと相槌を打つ。他愛のないやり取りだが、静雄にはどこまでも新鮮でそして喜ばしいものだ。打てば響くような応えや、笑えば笑い返してくれる表情、どれもこれも静雄が欲しくても手に入れられなかった日常だ。それをつい最近出会ったばかりの高校生が与えてくれる。それだけで静雄が彼の元に通うだけの理由になるのだ。
「お腹すいてる時のコンビニは魔窟ですよね。色々と買っちゃいそうになります」
「主食からデザートまで一通り手を伸ばしちまうよな」
「生活費が足りなくてバイトしてるのに、これじゃ意味無いです」
苦笑する顔を横目で見ながら、むず痒くて綻びそうになる口元を引き締めた。怒りも無い、畏怖も無い、暴力も痛みも無い。ただ日常のことや自分のことをお互い話して、笑い合う。
(失くしたくねぇなぁ)
この時間も、この少年も。
「・・・竜ヶ峰」
「はい?」
「今日は何時上がりだ」
「今日ですか?えーと、今日は22時ですね」
備え付けの時計を見ると、後30分ほどで短い針が10を示すところだ。
「そうか。なら待ってる」
「ふえ?」
蒼い眸が大きく見開かれた。ぽかんと開いた小さな唇に、指を突っ込みたくなる自分を心の中で踏みつけた。
「夕飯まだだろ。俺もまだだから、付き合え」
「え?で、でも平和島さん夕飯を買いにきたんじゃ」
「ちげぇよ。・・・今日はお前に会いに来たんだ」
本当はその前からずっとこの少年目的で来ていたのだ。行けば会えることに甘えるのもいいが、やはり自分から手を伸ばして今までよりももっとこの関係を維持したい。静雄はこの時間も少年も好きなのだ。失くしたくない。
「コンビニ以外のとこで、お前と話したいんだ。・・・・だめか」
最後が頼りない音になった自分に凹みそうになったが、それも目の前でふわりと紅を散らした顔に吹き飛ばされた。
「っ、」
少年は、戸惑い気味に、けれど面映ゆそうにゆっくりと微笑んだ。
「僕も、平和島さんともっと仲良くなりたいです」
静雄はサングラスの下で思わず男泣きしそうになった。
それからというもの、彼らの逢瀬はコンビニだけでなく、他の場所でも見られたそうだ。
彼らはどういう関係かって?
まあ、ただの店員と客じゃなかったってことかな。
「あー、とその竜ヶ峰」
「はい?」
「俺のこと、静雄でいい」
「えっ、あ、はい!・・・えーと、静雄、さん」
「・・・おう」
「えへへ、じゃあ僕も帝人でいいです」
「・・・・帝人」
「はいっ」
(なんかくすぐってぇ)
(ふわふわする)