Second Doll
「いったい、何だってこんなことしてるんだ?」
事後の気怠い空気の中、疲れ切ってばら色の頬をしている帝人に煙草を燻らせながら赤林は尋ねる。
「それは家出のことですか?それとも身体を売っていることですか?」
「両方とも」
見るからに真っ当そうで、コチラの世界には縁のなさそうな子だというのに。赤林には不思議だった。
「家を出ているのは、単純に帰るところがなくなってしまったからです」
「帰るところがない?」
「実家はちゃんと田舎にありますよ?そうじゃなくて、池袋で住んでいた部屋があったんですけどね」
ふぅ、とミカドの口から吐息がもれる。
「数ヶ月前に、ちょっとしたトラブル続きで明日のご飯さえ買えない時があったんです。もちろん次の月の家賃も払えそうになくて、でも生きる為にはどうしてもお金が必要で、どうしようもなかったので僕自身でお金にすることにしたんです」
「そいつはまぁ・・・・・田舎の親御さんに頼ろうとは思わなかったのか?」
「親に連絡すると、これ幸いと連れ戻されることが目に見えてましたから。それだけは絶対に嫌でしたから。……それで、運良く僕を買ってくれる人がいて、過分なお金も頂いたんですが・・・・・・・」
「ですが?」
言い淀んだミカドにを赤林は見下ろす。
「ですが、どうも妙に気に入られてしまったようで、必要以上にお金を渡そうとしたり、マンションに連れて行かれてそこに住まわされたり、挙句の果てに外出制限みたいな感じになっちゃって……最後のは僕が何度かマンションから脱走して連れ戻されたっていうのがあったからだと思うんですけど、」
「軽い愛人状態だな」
「愛人に軽いとか重いがあるのかは知りませんが・・・・その方は結婚していないみたいなんで愛人ではなかったんですけど」
どこかで似たような話を聞いたような気がした。お気に入りの子をマンションに住まわして囲って外に出さないようにして・・・・・。まさかな。
「再び今回脱走して、なんとか前に住んでいた部屋のとこまで行ったんですけど、もう契約を解除されてしまっていたみたいで、途方に暮れていたんです」
「それで、夜に声をかけたおいちゃんも、自分を買った人だと思ったわけか」
それで夜這いとなったわけか、と赤林は納得する。
「その人と赤林さん、同じような雰囲気してるから」
僕も嫌じゃなかったし、とボソッと呟いたミカドに、赤林はオイオイと思う。
そういうことを、恥じらいを含んだ表情で言われると男はそそられるんだよ、と忠告したくなる。
「ミカドくんは男をその気にさせる才能があるよ」
「はい?」
思わず言ってしまった赤林に、ミカドはパチリと瞬きをする。しぱしぱと瞼を震わせて赤林を見つめていたミカドだが、ふむと考え込むような仕草をする。
「いや、言ってみただけだから、そんな真剣に悩みなさんな」
「冗談だったんですか?」
「いや、あながち冗談でもないんだが・・・」
まさかこの発言がもとで、ミカドがこの仕事を本格的に始める切欠となるとは、思いもしななかった赤林であった。
そのことを知った四木に、赤林は酷く恨まれることになるのだが、それは後のことである。
作品名:Second Doll 作家名:はつき