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存在理由 (コードギアス/朝比奈)

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ずっと自分が居るべき場所を探していた。
 その心地良いと感じる場所を知っている者が、何億と居る人類の中でどれだけ存在しているのかはしらないが、自分は、見つけられたと思っている。
 あなたの傍に居ることが、自分が存在する理由である限り。





 枢木首相の本宅警護の任に就いたのは、春であるはずなのに夏の盛りのように暑い日の出来事だった。
 軍人である自分が一国の首相とはいえ個人の邸宅の警護につかされるのは、正直腹立だしく、かつなんでこんなことになったのかもよくわからなかった。
 日本の大本営が置かれている松代に勤め、そこそこに出世街道に乗っていたはずなのに、昨日、いきなり何の前置きもなく渡されたのは配置移動の書類だった。有無を言えるはずもないその突然の転属は、文句を言える相手もいないまま、おとなしく指示に従うしかなかった。
 長くとはいえないまでもそこそこに馴染んだ松代から小一時間かけて新しい任地へとたどり着けば、そこは個人宅とは思えないほどの敷地面積を持つ邸宅だった。
 神社でもあるから個人の邸宅といっても微妙に違うのかも知れないが、すでにそこには数人とは言えないほどの私的な警備の者が任についており、自分は一体どこで何をすべきなのかと途方にくれるしかなかった。
 というよりなんでこんなに警備が厳しいのだろうと、その一員になる筈の自分が思ってしまうのだから、本当に厳重な警備が敷かれていたのだ。
 どうにか警備の責任者を突き止めて就任の挨拶と自分の配属を聞き出せば、告げた松代からの軍人という言葉がたいそうお気に召さない様子で、あちこちへと電話をかけては文句と諂いを当人の前でした。
 一応警備のトップの彼も軍人らしいが、経歴的にそう芳しいものではないらしい。そう直感したのは、何しろ松代の名だけで機嫌を損ねたので、自分の名を名乗ることさえできなかったからだ。
 これは尊敬に値しない上司だとインプットしていたら、とりあえず外の通用門の警備を担当しろと告げられた。仕事に文句は言いたくないのでそのまま辞そうとしたら、屋敷が騒がしくなっても決して持ち場を離れるなと念を押された。
 それはつまり屋敷で何かが起こるということだろう。
 通用門というからには本当に使用人が通るだけの小さな門なのだろうとは思ったが、これは勝手口と何が違うのかと問いたくなる。いや勝手口でさえない。穴だ、これは。
 ここを通る者はほとんどなく、時々、この神社に住む枢木の子息が裏山に遊びにいくときに気まぐれを起こして通るかもしれないとだけ告げられた。通用門の場所を探していたら出会った調理番のおばさんに案内されながら、警備が必要だとは到底思えないんだけどと笑われ、実際、その場について自分でも心の底から同意した。
 確かに門はある。だがこれは塀に穴が開いたのとどう違うのだと問いたかった。そしてこの開いた穴以外に、塀はあちこちで途切れていて、出入りを封鎖する手段はなかった。というか裏山から進入する者のことなど、はじめからまったく想定していないのだ、この家は。
 確かに小高い丘か小さな山程度の『裏山』は、手入れを怠っているのか初めからするつもりがないのか、壁が築かれた周辺と少し奥までは木が茂っているというほどではないが、その奥すぐに雑多な空間が広がっていて、その奥は深い谷になっているという話だった。
 谷の先まで続く私有地は入り口あたりに、また別の警備の者が配置されているらしい。
 そんなわけでここを警備する意味はまるでなかった。
 どうせならここを通ることがあるかもしれないという枢木の子息でも通りかかればいいのにと思いながら、人気のないその場にただ立ち尽くす。
 立っている事が仕事なのだから立つしかないが、松代での主に仕事にしていたのは、最近はディスクワークばかりだったためか、ただ立っていることさえ辛い。訓練には参加していたので鈍っているという程ではない筈だが、これは相当鍛えなおさないと駄目だと自分で思った。
 警備の時間は午後五時まで。それ以降は見張りの代わりが来なくても、帰っていいことになっていた。というより代わりの者など初めから居ないのだろう。
「見張りか?」
 不意にかけられた声に慌てて振り向くと、そこには背の高い男が立っていた。私服だがその雰囲気や体つきから、恐らくは軍の者だと察することが出来た。
「君が松代から来た朝比奈か。案外あっさり要請は通ったようだな」
 声を張り上げなくても会話が出来る位置に近づかれるまで気づかないなど、自分としてはかなりの失態だった。これも鈍っている証拠かもしれない。
「ここには枢木首相の私兵が殆どで、軍人は冷遇されているが、腐らずに居れば正当な評価は受けられる」
 その声の優しさに男の顔をまじまじと見れば、どこかで見たことがあるような気がしてきた。深い鼻梁をした精悍な顔立ちは直接見た覚えはないが、おそらく何かの記事で写真か何かを見たはずだ。それも度々。
「軍の関係者は君を含めて四、五名ほどこの屋敷に居る。私は仕事で来ているわけではないが、ちょくちょく顔を出しているから、何か困ったことがあったら相談するといい。ある程度なら聞けると思う」
 では、と踵を返す男に敬礼を返しながら、ひっかかったまま出てこない記憶を手繰る。というか屋敷から離れたこんな辺鄙な塀に何の用があったんだろうかと邪魔な思考が遮り、なかなか思い出せなかったが、本当に不意にその名前が浮かんできて、いやまさかこんなところで、と自分の思考を否定した。
 藤堂鏡志朗。たしか中佐だった。
 なんでそんな人が塀の穴の見張りなどに声をかけてくるのか、そもそもこんな屋敷に居るのか。仕事ではないとはいっていたが、ここは日本の首相の家で、中佐レベルの人が私的に出入りをしていると知れたら、マスコミがどんな脚色をつけて誇大に報道すると思っているのか。それともマスコミさえも周知している暗黙の了解でもあるのか。
 と、そこまで考えて深くため息をつく。どちらにしても自分にはあまり関係はなさそうだった。
 関係ないと思ってから、名前を呼ばれたような気がすると思い出して、気のせいだったかとやり過ごす。もし名を知っていたとしても、上官には名乗らせてもらえなかっが、人事配置の書類を見ればしっかり書かれているのだ。知っていてもおかしくない。
 それから何故こんなところに左遷されたのか訳を考えてみるが、無駄に長い時間はあってもその理由には行き当たらない。
 口は悪いことは自覚していたので無口なくらいに人とはコミュニケーションをとらなかった。それが災いしたのだろうか? 暗い奴はこんなあなっぽの見張りがお似合いだと……あ、だめだ。なんか意識が暗くなっている。
 暗くなっているといえば辺りも暗くなっていた。この時期にこの暗さでは、きっと五時なんて既に通り過ぎて久しいに違いない。初日から熱心に勤めすぎてしまった。