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存在理由 (コードギアス/朝比奈)

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 そう後悔しつつ持ち場を離れようとした時、傍で不審な物音を感じて身を竦めた。先ほどの藤堂のように気配を感じさせないものではなく、かといって彼らはおそらく気配を消そうと息を殺していた。自然と腰に刺している軍刀に手が伸びる。いつでも抜刀できるように身構えながら、その不審な気配に全身を集中させた。
 裏山と料理番が呼んでいた雑木林から現れたのは、二つの人影で、薄暗くなった状態では確認し辛かったが、そのどちらともが軍服を纏っていた。
 一つがひょろりと背の高い男で、その背には老人と思われる者が背負われている。もう一つは中背だがその柔和な線は女性だろうと思わせた。
 侵入者、というにはなんとも不思議な取り合わせに戸惑っていると、三人は枢木の邸宅を指差しながら何事かを会話し、そのまま身を隠すように動かなくなった。
 塀というか壁に開いた穴以外に壁のあちこちが途切れているので、敷地には入り放題だった。というかもう壁の向こう側も敷地なのだった。
 その三人に意識を向けながらも、こちらの気配を気取られぬように緊張を高める。
 相手が何を考えての行動をとっているのかはわからないが、もし敵に回られた場合、老人を除いて二対一。女がどれ程の者かはわからないが、男の方のあの長身は梃子摺りそうだった。
 それでも負ける気はまったくないけれど。
 不意に屋敷の方で何かが割れた音がする。その大きな音は皿が一つ二つ割れた程度ではないだろう。ガラスの窓か何かに体当たりでもして割ったくらいではないと、ここまでの反響はしない。
 騒がしくなる屋敷の喧騒に興味を惹かれるが、持ち場を離れるなと念を押した上司の言葉が浮かんでくる。何かが起こるだろうとは思ったが、こんなに早いとは正直思っていなかった。
 着任早々、事件が起こっては、このまま安穏とした見張りの職は続けていられないだろう。この退屈な職が一時的なもので済みそうでほっとしながら、更に意識を鋭くする。
 あの三人が動き出したのだ。
 急かすような女の声を、長身の背から降りた老人が制する。杖を突いてはいるが矍鑠とした姿に、仲間というより主人と使用人のようなやり取りを感じた。アンバランスなその三人に興味を持ち、そっと気づかれないように持ち場を離れた。屋敷が騒がしくなっても持ち場を離れるなということだったが、もともと勤務時間はとっくに終わっているのだ。自由な時間に何をしても構わないだろう。
 もっともここが私有地である限り、こんな風に勤務外で散策していたら不法侵入になってしまうだろうが。
 とりあえずそれを問う者はなく、むしろよほど怪しい不法侵入者を追っていたと言い訳が付けられそうな状況の下で邸宅まで近づくと、不意に背後を小さな影が通り抜けた。
 小柄な割にすごい速さだったが、あれが枢木の子息だろうか。いいとこのお坊ちゃんなんて頭でっかちのガリ勉だろうという勝手な思い込みがあったが、今一瞬だけ垣間見た走る姿は、そんな柔和そうには見えなかった。自宅で起きた不審な騒ぎに、小さいながら必死で対応しているのだろうか。
 危ないことはあんまりしなければいいと思いながら、不可思議な三人組をおいかける。
 この場に不似合いというか似合いすぎているというか、これだけ堂々と尾行していても気づかないのは無防備すぎると思う。先ほどからほとんど姿を隠さないまま後を歩いている状態なのだ。いいかげん気づけと後ろから声をかけたくなってしまう。
 そんな欲望を抑えながら後を追うと、建物の脇に隠れていたつもりらしい人物が待ち構えたように三人の前に飛び出してきた。というか、あれ隠れていたんだよな? 鍛えられているらしい体躯は壁から思い切りはみ出して、とても隠れているようには見えなかったんだが、というかとっても目立っていたんだけど。
「中佐は?」
 三人組の中の女が早口にその男に問いかける。見れば体躯の割りに年を取っているらしい男は、屋敷の奥を指し示して緊迫した様子を伝えていた。
 おそらくはこの三人の侵入者と最後に合流した男と関連した人がこの屋敷につかまったか何かしたのだとは思うが、それにしても侵入者の割りに堂々としすぎては居ないか? あまりに堂々としているせいで、もう誰も侵入者だとは思っていないような気がする。
 それに三人のうちの最年長の一人が威風堂々としていて、とても裏口からこっそり入り込んだようには見えない。品がいいというか、どう見ても客分以外には見えないのだ。
 その客分を案内している軍人……という組み合わせが異質なのであり、またその軍人たちがどう見てもあのお年寄りより優先している者が居そうなのが異質に見せているのか。
 その優先されているらしい『中佐』とやらは、屋敷奥に幽閉されたようだった。
 一体何をしたのか、されたのか。そして彼らは何をするつもりなのか。この屋敷で起こった騒動となにかしら関係あるように思えて、彼らを尾行する事への言い訳を組み立てる。
 先ほどのガラスが割れたような騒ぎからそろそろ一時間は経とうかとしていた。
 積極的に前に出ずに、尾行を続ける自分の視界を、不意に妨げた存在がいた。
 明らかに例の不審者達を尾行している姿に笑いが漏れる。彼らを追うあまりにまた自分の存在には気づいていないようで、尾行する者を尾行する形になりながら四人を追いかけた。もちろん他に追いかける者がいないかは確認してからだが。
 四人が赴いたのは屋敷の隅にある地下への入り口だった。そこから当然のように周囲を警備する者に声をかけ、老人を先頭にして地下へと降りていく。その様子だけを見るととても裏山から進入してきたようには見えず、彼らを尾行しているこちら方が何倍も不審に思えた。
 そしてそれ以上に不審なのは、地下へと降りていく彼らを見て舌打ちをし、そっと屋敷へと戻っていった尾行者だった。
 彼と侵入者たちが敵対関係にあるのだけは確かだろう。それ以外のことはもう曖昧すぎて何が真実なのかわからなくなってきたけれど。
 ともかく。侵入者として尾行する必要はもうないが、このまま帰る気にもなれず、そのまま流れを見守っていた。慌ただしく行き来する見張りが数人、それから最後に合流した初老の男がその場に残り、あたりをぐるりと見渡した。
 その視線が一瞬こちらをみて止まったように思えて、僅かに息を飲む。もし誰何されても堂々としていれば良いのだとは分っているが、なんとなく自分が後ろめたい気がしてしまうのは何故だろう。
 そのまま外れていった視線に安堵していると、僅かなざわめきが聞こえてきて、そして背の高い男が顔をのぞかせた。
 藤堂。
 女が言っていた中佐という人物が彼だとすぐに納得した。
 先ほどの塀の傍での会話の後に、何がどうなって彼が幽閉されたのかはわからないが、なぜ先ほどはすぐに思い出せなかったのかと思うほどに彼の功績はすごく、軍に居るものなら誰でも知っているだろうというほどに彼は有名人だった。
 だがなぜ彼が枢木の屋敷に幽閉されていたのか。両の手を縛られていた後のようになじませて振り、手首を回している様子から見ても、捕まっていたのは考えすぎなわけではなく事実だろう。