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存在理由 (コードギアス/朝比奈)

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「全軍とはいわないですけど、せめて十分の一の戦力は動かしたいとこですね」
 元々伏せるための兵が必要ではあるし、誘い込むための戦術も展開しなければならない。更に撃退するための本陣も必須だ。
「人材の配置の大まかなものを任せられるか?」
「俺は単純に人数だけ割り出して配置するだけなら出来ますけど、適材適所への配置は、たとえば千葉さんとかに任せてもいいですか?」
 元々藤堂に従っている部下の女性の名を上げると、少し悩んだ風に首を傾げてから、そして頷いた。まだ仲間というものの把握が出来ていないのだ。必要な人数を割り出すことは出来ても配置するに良い人材までは把握できていなかった。きっと女性の細かな配慮なら適材適所に配置してくれるだろう。
「千葉がその手の事に向いている事をいつの間に知った?」
 なんとなくです。と、告げてはだめだろうか。若干表情が和らいだような気がするのはたぶん気のせいではないと思う。
「仙波と卜部には呉に残って敵を誘導してこさせる。千葉に厳島に伏せさせ追撃は俺がする」
 人事は千葉さんにと言った割りに人配を自分で決めると藤堂はこちらをじっと見つめた。
「お前は、身体は大丈夫なのか」
 何か心配されるようなことがあったかと思ってから、そういえば退院もしないで勝手に抜け出してきたままだったと思い出す。しかし抜け出してしばらく経っているのだ、今更心配されるようなものでもない。
「日常生活と戦闘は違う。それも生死をかけた厳しいものだ。呉から離れた病院に入院の手続きをしてきた。そちらで……」
 何を言い出すのだろう。ここまで来て一人避難しろとでもいうのか。しかし避難したところで日本の敗戦が分かっている以上、結局は逃げ場はない。病院などにいたからといって、ブリタニアが見逃してくれるとは思わなかった。
「いやです」
「朝比奈」
「俺は言ったはずです。藤堂さんが居るところが俺の居場所だって」
 わざわざこんなところまで死にに来たのではない。病院で管に繋がれたまま爆撃されて死ぬより、戦って散るほうを選びたい。もちろんむざむざと死ぬつもりもない。
「しかし」
「確かに俺はデータ解析の腕見込まれて呼ばれたんだとは思いますけど、一応、それなりに軍務もこなせます」
 それなりでは付いて行くのがやっとなのかも知れないが、それでもただの事務畑の人間とは違う。松代では確かにデータ解析系の仕事をしていたし、ここに来てから当然のようにブリタニアの軍事解析を行わせるのだから、それは承知のことだろう。それどころか枢木の家に呼んだのさえ、今では藤堂の命だったのではないかと疑っていた。でなければわざわざあんなところまで顔を見せにはこないだろう。
「足手まといになるようなことはないと、思います」
 実際に藤堂や配下の者たちの戦いを見たわけではない。戦功は確認したがそれだけで語れるわけではないのは知っている。すでに藤堂には足手まといに感じているのかもしれない。
「そうとは言っていない。だが」
 不意にそのささくれだった硬い手が伸ばされ、こちらの右頬へと触れた。
 まだ触れられると引く付くような痛みが走る。骨まで達したという傷はそう簡単には治りはしないし、なにより凄みを与える傷跡は整形手術でもしないかぎりは消えることはないだろう。
 けれどその傷痕が何か問題かと聞かれれば、何の問題もない。女ではないし、軍人としては軟な顔立ちに拍車をかけてくれたのだ。願ったりだと思う。そう思うことにしている。
「守るものが欲しいと思うのは、駄目か」
 不意に藤堂の瞳が陰る。指揮者として、前だけを見ていると思っていた奇跡を起こす事を義務付けられた人は、強固な足元を有した完璧な人間ではない。脆くもあり弱さもある。完全でないことに足掻いて最善を尽くすために努力を惜しまない。
 本当にわずかな時間だけ接してきた自分がそう思うのだから、彼の傍にずっと付き従っていた者たちは、もっと自分など考えも及ばないほどに、藤堂の傍を守りたいと願っているのだろう。
「藤堂さんが守りたいのは、日本じゃないんですか?」
 返ってくる言葉が否だとは承知していた。むしろ肯定が返ってくるようなら、こんなに惹かれたりはしなかっただろう。
「そんな漠然とした大きな物をどうこう出来る器ではない」
 西の鉄壁と歌われ、今の日本では並ぶもののない指揮官とさえ噂される存在が、自分を否定するように首を振る。ただ人であるがために、だからこそ足掻くのだと。
「なら俺を守ってください」
 これはある意味、告白なのだろうか。
 厳しい表情がわすがに緩む。笑っているのだと気づいたのは、自分が釣られるように笑顔になっていたからだった。
 触れられている頬が僅かに引きつり、刻まれた痛みを思い出させる。この傷を刻んだのは藤堂ではないが、この傷を産ませたのは彼だ。
「その代わり、俺があなたを守りますから」
 これは誓いで願い。ずっと傍に居られるなら、依存しあえる方がずっといい。もちろん。
「もっとも千葉さんだって仙波さんだって卜部さんだって、藤堂さんは守りたいと思うだろうし、彼らもあなたを守りたいと思っていると思いますけど」
 一番でなくていい、オンリーワンでなくてもいい。ただ自分が存在できる空間があって、自分を必要としてくれる存在が居て、自分が必要だと思える理由があるなら、それだけでこの場所が自分の居場所だと分かるのだから。
 僅かに頬に触れたままの手が揺れる。そして藤堂がゆるやかに瞳を伏せる。覚悟したようなその笑顔に……そう、それは笑顔だ。先ほどよりはっきりと分かる。
 きっと藤堂をよく知らない者が見たら、普段の厳しい表情と区別出来ないだろう僅かな変化でしかないけれど、確かに俺は藤堂さんの笑顔を知った。
 その時、フェリーが接岸する衝撃に足元がたゆたう。
 ふらついた足をどうにか踏ん張って舳先に近い柵に寄りかかると、頬に触れていた藤堂の手が衝撃に外れたのがわかった。
 同時に。
「っ……」
 それは単なるアクシデントで、それもおもいっきりどこかのコミックのような滑稽さだった。
 ガチっと鳴った歯が悲鳴を上げる。擦れ合った事で口の中に広がってしまった血の味が不快感を醸し出す。ともに唇を押さえて痛みを堪える姿は誰がどう見てもどこかの漫才師のようだっただろう。
 だが。
 唇を押さえる手が硬直して時折ぴくぴくと震えている。その手で覆った顔が熱くて仕方ない。きっとおかしな位に真っ赤だと思う。
「あの、藤堂さん。お願いがあるんですけど」
 言葉はそのパニックになった思考回路の中では嫌味なほどに冷静だった。
「……なんだ」
 返ってきた声はやや上ずった気がするが視線は彷徨うように落ち着かなくて、どうやらこのアクシデントが彼にとっても単なる衝突だけではない事が知れた。
「メガネ欲しいんです。やっぱり視力落ちてるみたいで」
 傷は深かったが眼球は無事だった。けれどやはり視力には影響が出ていて最近すこぶる目が疲れる。そしてそれ以上に。
「……こんだけ近づいてるのに、藤堂さんの顔、はっきり見れない」