二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

存在理由 (コードギアス/朝比奈)

INDEX|6ページ/8ページ|

次のページ前のページ
 

 軍の命令でもなくでもなくくっ付いて来てしまっている自分の身は、いつの間にか藤堂の副官ということになっていて、同行するのに不都合はない。元からの部下らしい者たちには渋い顔をされているが、顔に傷をつけた責任を感じているらしい男はむしろ要らない気を使ってくれているような気がしなくもない。
「ずいぶんと霧が濃いですね」
 海の潮が風に運ばれて霧も幾分塩分を含んだような重みを漂わせていた。手探りで辺りを探らなければならないという程には濃くないそれが、静かな町並みをいやに神秘的に見せていた。
 すっと男の指先が一点へと向けられる。その方向に厳島のあのよく話題になる海に生えた鳥居があるのは知っていた。霧さえ出ていなければ、対岸であるこの場所からも小さく見えるはずだ。
 島は瀬戸内海に数多く存在する中で取り分けて大きくも小さくもない。なぜあの島だけが神の居る地となったのかはあいにく知らないが、こうして霧靄の先にぼんやりと浮かぶ姿を見ていると、昔の人がその島に神を見た理由がわかるような気がするから不思議だった。
「人がいっぱい死んだら、きっとここに流れ着くんでしょうね」
 かの島は神の住む場所だから、たとえあの島に生まれついた者だとしても埋葬はされない。もちろん流されるわけではないが、生まれた土地に戻れない悲しさよりも神域として守ることを優先するほどの信仰とは、自分にはよくわからない。もちろん生まれた地に何が何でも戻るというのもわからないけれど。
 もしあの神域が再び戦場になって多くの人々が命を落とすことになったとしたら、この対岸へもその亡骸が流れ着いてくるのだろう。犠牲者を出さない。そんな奇麗事は戦争というものの前では無意味だ。
 それでもこの男なら命を散らす者をできるだけ少なくして、ここが悲しみで満たされるような事にはしないだろうと、ぼんやりと考えていた。
 ここ宮島口からフェリーに乗れば約十分で宮島までたどり着く。他にも広島港から三十分足らずで着くなど、島とはいえ本土からさほど離れた場所ではない。とはいえ隔てるのは浅いとは言っても海なのに違いはない。さすがにあのブリタニアの人型でも歩いたり泳いだりは出来ないだろう。
 となれば移動手段は限られてくる。
 ここ日本まで運んできた戦艦が主なものになるだろうが、宮島周辺は入り組んでいて大型船が極秘裏に運航など出来ないし、秘密にする必要がなくても戦争でやって来ている相手が大手をふるってそんな大型船を運航するなら、もう戦争の雌雄は決しているということだ。
 上陸用のちいさな船に一体か二体程度の人型と歩兵が乗り込む姿を想像しながら、不意に空を見上げた。そこは霧なのか雲がなのか区別の付かない厚いベールが閉ざしていて、見知ったはずの空を思い出せなかった。
「もし空から来たとしたら……」
 輸送手段として空輸はすでに確立された手段だった。ブリタニアがそれを使ってこないという可能性はゼロに近い。だとすれば。
「一度に投入される人型の数がどれだけのものか、だな」
「公表しているデータ通りなら、ブリタニアが運行できる数は三十~多くて百。でも実数はもっとあるはずです」
 公表しているデータが真実とは限らない。けれど日本を狙う理由がサクラダイトの実質的保有だというなら、大量にサクラダイトを消化する人型は使えないはずだ。
「その点は考えない方がよさそうだな。実戦で戦うものとして、燃料に不安があるものを実戦で使うのは反対だ」
 不安があったとしてもデータとおりではなく、もっと潤沢な量を確保していると考えたほうがよい。
「堂々巡りだな」
 確かに昨日から同じ事を繰り返している。大量に投入してきても少数だとしても、日本が負ける筋書きに変化はない。
「厳島で勝てるでしょうか」
「神というものが本当に居るなら、縋ってでも勝つ」
 霧の向こう側に見える島は、ただ勇壮にその場にあるだけで、神域としての威厳を兼ねそろえてた。ここでもしブリタニアを敗走させることが出来たなら、あるいは奇跡として先の世に希望を残せるのかもしれない。
 厳島と呼ばれる宮島への定期連絡船はゆっくりと海原を進む。フェリーで十分ほどで到着してしまうその距離は、本当にわずかな時間でしかないのに、神域と世俗とを分けるにはもってこいの空間だった。
「フェリーではなく軍艦だったらもっと早く着くな」
「陸上を移動してきた相手なら、海を渡る事に躊躇しますし、海から誘う事が必須ですね」
 残軍を追いかけて海を細々と渡る愚はさすがに起こさないだろう。かといって海から進軍中の敵兵の目を厳島に向けさせる手立てなど、やはり思いつかない。
「ここに絞るつもりはないが、戦いの場としては最適だな」
 島の多くは手付かずの自然が残る。つまりそれだけ人が居住していないということだ。戦争に神域などと声高に言うのは無意味だ。相手が気にしてくれるとは限らない。
「朝比奈。正直に答えてほしい」
「なんです、藤堂さん」
 もうまもなく桟橋へとたどり着くフェリーの上で、藤堂はやや眉を寄せながら言葉を投げてきた。こちらの意見を正面から求めるのは珍しいことだったので、少し緊張しながら相手に微笑みかけた。
「日本はどれほど持つと思う?」
 藤堂が京都の筋書きを気に入らないと思っている気はしていた。あくまでも最善を尽くす立場にはいるが、それは日本が失われないための最善であって、負けるための最善ではない。
「個人的な答えでしたら、一ヶ月持てば褒めたい位です」
 もっと細かく言えば攻撃が始まって一週間~二週間がせいぜいだと思っている。
「松代の見解は?」
「正式な見解はブリタニアに対抗するだけの力が日本には存在する、です」
 昨夜見せていたブリタニアの資料も、実は松代での仕事の上で扱っていたものを個人的に所有していたものだ。極秘資料ではないがそう簡単に手に入れられるものでもない。松代にいた間にデータの解析もしていたからこそ手に入れられたもので、藤堂が松代の見解を聞いたのも元々松代に居たことを知っているためだ。
「内部では?」
「俺と同じか、もう少しは楽観的な感じでした」
 それでも二月は持たないという意見が大半だった。
 松代に置かれているのは大本営というだけに日本軍の中心ではある。けれど本陣はそこにあったとしても指揮官は存在しない。いや松代自体の指揮官は居ても、日本軍の総指揮官は東京に居て松代には指揮官クラスがほとんど不在だった。
「せめて松代程度の戦力があれば、ブリタニアに一泡吹かせられると思うんですが」
「簡単に言うな。松代は一応日本の大本陣だぞ」
 逆に松代に藤堂クラスの指揮官が居れば、日本の未来は変えられたのかもしれない。とはいえ藤堂がどの程度の指揮力をもっているのかは直接知っているわけではない。伝えられる勲章の数や記事で見知っているだけなのだ。
「いっそ呉でも攻撃してくれれば、そのままあの部隊を使って厳島戦に雪崩れ込めるんですけど」
 呉はこの地方の最大の軍事施設を抱えている。松代に及ぶべくもないが、それでも多数の部隊を抱えていた。ある程度の人員があれば一戦を勝った様に見せかけるくらいなら容易いだろう。