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まるてぃん
まるてぃん
novelistID. 16324
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ここ数日降り続いた雨のせいで、山道はぬかるんでいた。
足が地面に着いては離れる度に、泥水が跳ね上がる。
跳ね上がった水はズボンの裾を容赦なく汚したが、男はそんなことにはまるで無頓着に前へと歩を進めていった。
緩やかな傾斜が続くこの坂道を、これまでにも何度か往復した。そろそろ通いなれてきた道だ。このままもう少し真っ直ぐ上っていくと、次は右にカーブしている。曲がりながら坂の傾斜は強くなり、頂上まで辿り着くと今度は下り坂が始まる。そうして導かれるままに坂を下りていけば、山間にある閑静な集落地に到着するのだ。
今朝、長く続いた雨がようやくあがったので、男は朝一番に村を出て山を下っていった。まだ空には低く雲がたちこめていたが、確実に雨の気配は遠ざかっている。山麓にある村よりも少し大きな町に出て、いつもより多めの買い物をした。もう少し遠出をすれば、この国で最も栄えている街に行くことも可能だったが、とりあえず男に必要な物はここで取り揃えることができた。目的の物をすべて買い終えると、寄り道もせずに真っ直ぐに帰路へと着く。いつもならそこそこに店のある町に出てきたら、いろいろと見て歩くのが男の楽しみだったが、今日は山間の村に待ち人がいるのだからと思い、すぐにその場を後にした。山道は雨のせいでかなり歩きにくかったが、男の足取りは軽かった。





「よう。ビクトール、帰ってきたか」

もう2週間近く滞在している家の玄関のドアを開けると、家主の男が声をかけてきた。いかにも村男といった風情の鼻の下の剛毛なヒゲが特徴的な男だ。年はすでに50代も半ばにさしかかろうとしているだろうに、まだまだ精力的で若々しい雰囲気があった。出会った時、ビクトールとフリックは、血と泥に塗れた悲惨な状態だった。それにも関わらず、この男は二人をこの家に連れてきて介抱してくれた。お節介なほど気の良い男と言えるだろう。その厄介な性格のおかげで、今もまだ怪しげな二人連れをこの家に留めることになっている。ビクトールはともかく、フリックの怪我の具合が予想以上におもわしくなかったため、二人にとっては非常にありがたい存在ではあった。

「頼まれてたもん買ってきたぜ。それとあいつの薬も買ってきたからな。水くれねえか?」

ビクトールは両手に抱え込んでいた荷物をテーブルの上に置くと、袋の中をのぞきこんで漁った。

「水ぐらいならいくらでもやるけどな。フリックはここにはいないぞ?」

男の言葉にビクトールが困り顔で溜息をつく。

「なんだよ。あいつまたどっか行ったのか?」
「ああ、ついさっきな。おまえさんが今、入ってきた扉から出て行ったぞ」
「どこへ?」
「さあな」

あっさりとした答えに、ビクトールはもう一度盛大な溜息をつくと、どさりと椅子に身体を沈めた。

「なんであいつは、じっとしてらんねえのかねえ。だから傷の治りも遅いんだよ」
「まあそう言うな。こんな何にもないところで、何日もベッドに縛りつけられてみろ。フリックじゃなくたって嫌になるさ。それに輪をかけて鬱陶しい雨続きだったからな」
「普通、腹にあんな大怪我したやつは、そうそう何度も外に出歩かねえって」
「そりゃそうだ」

大笑いしだした男に仏頂面を向けて、ビクトールは大儀そうに椅子から立ち上がり玄関へと向かう。

「なんだ。また捜しに行くのか?」
「ほうっとくわけにもいかねえだろ」
「この数日間、家に閉じこもってじっとしてたんだ。もう怪我のほうも平気なんじゃないか? 涼しげな顔して出て行ったぞ」

男の呆れ顔を無視して、ビクトールは肩越しに片手をひらひらと振った。

「まだまだあいつもガキなんでね」
「はっはあ。お子様は迷子になると困るか」

笑いを含んだからかうような声が背中に投げかけられる。

「ま、それに…」

ビクトールは相変わらず男に背を向けたまま、何かを言いかけて、ほんの一瞬ためらった後に続けた。

「あいつのことは頼まれてるんでな」
「ほう。誰にだ?」
「とびっきりのイイ女だよ」

扉を閉める寸前、ビクトールは振り返りニヤリと笑った。



冷たい風が吹いている。
店も何もない小さな村の中で行くような場所など限られている。ビクトールは簡単に村をひとまわりしてから、普段からあまり村人さえ行き来しない山奥へと続く道に向かって足を向けた。しばらくのんびりと歩き続け、足元に探していた目印を見つけると、小さく鼻を鳴らす。何日も続いた雨で、泥道にはしっかりと何人もの足跡が残っていた。だが山奥へと続くこの道には、ただ一人分の足跡しかない。どうやら今回の追跡は、今までで一番楽なものになりそうだ。

「…ったく。こんなしっかりとした証拠を残していくようじゃ、お尋ね者にはなれねえな」

それともわざと残していったのかもしれないが。
心の中で呟いて、ビクトールはその足跡を追って行く。どんどん奥へと進んで行き、どこまで続くのかと訝りだした頃、足跡はここまでやって来た道から外れ、ほとんど獣道と言って差し支えない草と木が生い茂った方角へと続いていた。

「勘弁してくれよ…」

雨上がりにこんな道を行く困難を思うと、情けない声も出ようというものだ。まったく何を考えているんだかと文句をたれつつ、そのまま足跡を辿っていった。
それなりの距離を歩き続け、いい加減少々うんざりしてきた頃、いきなり目の前が開けた。
眼下に広がる風景。ほとんど霧で覆われてしまっているが、おぼろげながら小さな町並みが見える。あれは今朝ビクトールが行ってきた町だ。そして今は見ることができないが、遥か遠くには赤月帝国の首都グレッグミンスターが見えるはず…いや、今はもうトラン共和国のというべきか。
この壮大な景色を目の当たりにして、ビクトールはようやく自分が崖の上にいることを知った。もし勢いよく駆けてきていたりしたら、何も知らずに真っ逆さまだったかもしれない。

「あああぁぁぁ。もうマジで勘弁してくれ…」

脱力して嘆きたい気分だった。
これほどの絶景が見渡せる場所がこんな所にあるとは驚きだが、元々このような場所を探し求めてここまで来たわけではなかった。ビクトールが探していたのは一人の青年だ。そして、その青年は、ビクトールからそれほど遠く離れていない場所に立っていた。

作品名: 作家名:まるてぃん