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言い訳は疲労

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その日、竜ヶ峰帝人は疲れていた。
それはもう疲れていたのだ。

昨晩、突然にパソコンに不具合が生じ、その対処に追われて帝人は徹夜していた。つまりは一睡もしていない。それだけなら日ごろから睡眠不足がちな彼にとって、耐えられないことではなかった。しかし本日の体育の授業で行われたのは長距離走だったのだ。ただでさえ持久力のない帝人の体力は尽きた。
それだけではなく昼休みには那須島に呼び出されたため、まともにご飯を食べていない。しかもその内容というのが手伝いとは建前で、ねちねちとした嫌味とセクハラまがいの行為だった(どうやら女子だけではなく男子もいける口らしい)。当然ボールペンで刺してやったがそれだけでは腹の虫は治まらない(ああだこうだ騒いでいたが知ったことか、奴の言うことなど誰だって相手にもしないだろう)。
そしてこんな日に限って回ってくる掃除当番を終わらせた後の委員会。その委員会も終えて、さあ帰って寝るぞ!と意気込んで帰宅しようとしたのに、そちらもちょうど委員会が終わったのか正臣と鉢合わせ。そのまま一緒に帰ることになり、正臣の寒いギャグに反射でついツッコミを入れてしまい、体力をさらにすり減らしていった。

このようにして身体的精神的疲労を蓄積させていった帝人であったが、彼にとって一番こたえていたのは、恋人である平和島静雄に会っていないことであった。

数週間前に行われた定期テスト。静雄と居ては勉強に集中できない、とテスト週間が終わるまでは会わないよう決めたのだ。静雄はかなり渋ったものの、最終的には了承してくれた(最後に会った日には埋め合わせとしていろいろされたし、させられたが・・・)。
しかし定期テストも無事終わったところで、今度は静雄の仕事が忙しくなったのだ。そしてそのまま会う機会を逃してしまい、ここ半月以上は静雄に会っていないことになる。


(そもそも一緒に居たらすぐに手を出してくる静雄さんがいけないんだよ。それさえなかったら勉強に集中できるし、テストやってる間だって会えたのに・・・。それにいくら忙しいからってちょっとくらいメールか電話でもしてくれればいいのに)

正臣と別れた帝人は一人でとぼとぼ歩きながら、普段はまったくしない静雄への文句を心の中でつける。仕事の邪魔になってはいけないと我慢してきたが、そろそろそれも限界だ。
そのまま歩いていると奇妙に折れ曲がった交通標識が見えた。一応地面には刺さっているものの、傾いており今にも倒れそうだ。無理矢理地面に突き刺しただろうことが見て取れる。こんなことできるのは池袋で、いや少なくとも日本ではただ一人しかいない。
その人物がここで暴れる姿を想像した時、妙な怒りがわいてきた。

(あの標識振り回して暴れてたんだろうなあ・・・。いいよね、標識は。いつだって静雄さんのそばで静雄さんに使ってもらえて静雄さんの役に立って。いつも静雄さんは僕を置いて標識や自販機と一緒にどっか行っちゃうんだ。どうせ僕は何の役にも立たないただの足手まといですよ悪かったですね。そんな役立たずな僕なんかと一緒にいるよりも標識振りまわして暴れる方が静雄さんにとってよっぽど有意義なんでしょうね。だから連絡の一つもよこさないんだきっと。それならいっそのこと標識と結婚しちゃえばいいのに)

竜ヶ峰帝人は疲れていた。
寝不足で、空腹で、体力は限界まで達して、ストレスも溜まりに溜まっていたのだ・・・。

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作品名:言い訳は疲労 作家名:千華