みかど☆ぱらだいす@11/27UP
出会い編 -静雄と帝人の場合-
帝人は大きな眸をさらに大きくして、目の前の光景に見入っていた。
崩れた壁。散乱するコンクリート。折れ曲がった標識。爆弾でも落ちたのかと思われるような惨状。これを造り出したのは、ひとりの男の手によるというのだから、帝人の好奇心はさらに疼く。
「一体誰が」と周りに聞かずとも、すぐにわかった。きっと、あのどこにでもある赤い自販機を持ち上げている彼だ!
帝人の予想は、男が自販機を投げ飛ばしたことで確信に変わった。
帝人は、散乱するコンクリートに時折足を引っ掛けながらも、嵐がさった場所をひょこひょこと歩く。自販機を投げたひとはどこかへ行ってしまったので、帝人はとりあえず地元では見られない光景を堪能することにした。
崩れた壁に触れば、やはり硬い。こんこんと帝人の小さな拳で叩いても、びくともしなかった。次に帝人は折れ曲がった標識に手を伸ばした。直立からお辞儀をするような形になってしまった標識を掴んでみる。こちらもやはり硬い。本物だぁと帝人はふくふく笑う。
そしてメインディッシュの自販機だ。横たわった自販機からは見本が飛び出していた。片手で押してみてもびくともしないので、両手で押してみる。やはりびくともしない。
なんとなくそのまま押し続けていると、背後から「・・・何してんだ」と声を掛けられ、帝人は思わず「うひゃあい!」と間抜けな声を出してしまった。羞恥のまま振り向けば、帝人の変な声に驚いたのか、サングラスの下で目を丸くした男が佇んでいた。そのまま見つめ合うこと十秒。
「・・・・・・・は、初めまして」
「・・・・・・・おう」
沈黙を破ったのはありきたりの挨拶だった。
「・・・・あー・・・、こんなとこに居るとあぶねぇだろうが。転んで怪我すっぞ」
「え、あ、はい。すみません」
帝人は頭を下げようとしたが、寸前で止めた。その代わりに、首を横に傾げる。ぱちりと瞬きを繰り返して、帝人は「あ、」と声を上げた。その声に男は反応して同じように「あ?」と言った。帝人は離れていても見上げなくてはいけない位置にある顔に、ぽんと手を打つ。
「自販機投げてた人だ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
無言になった男を尻目に、帝人は感動していた。何せ居なくなったと思った本人が目の前に居て、なおかつ言葉を交わせたのだから。
(すごい。身長はあるけど、特別マッチョとかに見えないのに、あんな力が出るなんて)
いや、もしかしたら今はやりの細マッチョかもしれない。
(体格良いもんなぁ。紀田くんも大人になったらこうなるのかなー。・・・無いな、それは。)
帝人が幼馴染に対し、辛辣なことを思っていると、頭上から「おい」と声が振ってくる。「はい?」と顔を上げれば、男が今度は微妙な顔をして立っていた。
「・・・お前、池袋に住んでんのか?」
「あ、はい。高校進学でこっちに引っ越してきました」
「・・・・なら、俺のことぐらい知ってるだろ」
「はい。紀田・・・友達が教えてくれました。でも実際お見かけしたのは今日が初めてです」
聞かされた時は正直半信半疑だった(だって自販機とか車とか素で持ち上げるなんて)が、目の前で実証されたら信じるしかない。帝人はにっこりと笑った。
「すごいですね」
「――――ッ、」
「本当に自販機が飛ぶなんて、僕初めて見ました!軽々持ち上げてたから、実は軽いのかなぁって思って触ってみたんですけど、やっぱり重いですね。両手で押しても全然動かないですもん。あ、もしかしてコツとかあるんですか?もしあるんだったら教えてほしいです!」
「い、いや、別にねぇけど・・・」
「そうですか・・・・」
心底残念そうに肩を落とす帝人を、男はまじまじと見つめる。その視線に帝人はもう一度首を傾げ、「何ですか?」と聞いてみた。男は何故かうろたえ、暫く唸った後、ぽつりと「怖くねぇのか?」と言った。
帝人はきょとんとした顔をして、
「どこがですか?」
本当に、本当に不思議そうな顔をして答えた。
そんな帝人に、男は声を失い、しまいには脱力したようにその場に膝を付いた。
「え?え?どうしたんですか?怪我でも?」
思わず伸ばした手を捕られる。妹が握る力よりもっと強いそれに、帝人は驚いて男を見た。男はサングラスの下で、帝人をじっと見つめて、
「・・・・・なあ、名前何て言うんだ?」
「僕、ですか?えっと、竜ヶ峰帝人って言います」
「女子高校生だよな」
「はい、一応」
「何で『僕』なんだ?」
「昔からの癖なんです。幼馴染は直せって言うんですけど、妹も『僕』だから中々抜けなくて」
「ふぅん」
「・・・・・あの、」
「・・・・・平和島静雄」
「ほえ?」
「俺は、平和島静雄だ」
「・・・・平和島静雄、さん」
「おう」
男はどことなく嬉しそうに応えた。
帝人も何故か嬉しくなって、もう一度男の名前を呟いてふわりと笑った。
池袋最強の男とお知り合いになりました!
(平和島さん、平和島さん)
((子犬みてぇ)何だ?)
(僕の妹もですね、力持ちなんです)
(へえ)
(こないだ紀田君、幼馴染に教卓投げつけてました)
(へ、へえ・・・・)
(もうちょっと頑張れば平和島さんみたいに、自販機投げれるかもしれません)
(それは・・・・・・・・どうだろうな)
実はお互い一目惚れ。
作品名:みかど☆ぱらだいす@11/27UP 作家名:いの