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雨の日、わざと傘を忘れて行った

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 意外と早く帰ってくれて助かった。困ることにならなくて良かったと思う心の、裏側、一度も触れ合わなかった肌を残念に感じている自分を発見して、帝人は恥ずかしさのあまりその場にしゃがみ込んだ。困る、困る、困る。臨也が女の子にキャーキャー言われているのを見るのはあまり気分の良いものじゃないから困る。臨也を紹介してくれなんて、そんなこと言われても、絶対紹介したくないのに。断り文句に困る。
 きっと、臨也は何もかも気付いているに違いないのだ。だいたい先にメールアドレスを勝手に変更するのはいつだって臨也のほうで、帝人には何の連絡もない。そのくせ、臨也に振り回されることに飽き飽きした帝人が、メールアドレスを変更するとその日のうちにふらりと現れて、こうやって自らの手でアドレスを登録しなおしていくのだ。
 ――わざわざ、その日のうちに、池袋までやってきてくれるのは、ほんの少し、嬉しい。

「……というか、ここまで来るんだったら傘のひとつやふたつ持ってきてくれたらいいのに」
 帝人の小さな呟きが終わるか終わらないかの絶妙のタイミングで、手の中の携帯が震えた。バイブレーションは三回。メールの着信を知らせる合図だ。誰から来たものかなんて、メール画面を開くまでもなく分かっている。
 失敗した。臨也は、どういった方法かはしらないが、彼お得意の情報収集術で、帝人の囁きを聞いたのだろう。これは言わされてしまうフラグだ。帝人が傘を持っていないことを気づかない臨也ではない。しゃがみこんだまま、帝人は頭を抱えたくなった。
 ざあざあと降る雨はいっこうに止む気配を見せない。