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宝生あやめ
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「蒼い太陽」 第一章 目覚める黒翼 (前編)

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第一章 「目覚める黒翼」(前編)

 はばたき市の繁華街。”繁華街”というだけあって、昼間だというのに人の数が多い。行きかう人々はクリスマス気分に浮かれていて、どの顔も幸せそうに見える。サンタの格好をした男が、どこかの店のビラを配っていたり、アミューズメント施設の横には大きなクリスマスツリーがあり、電飾たちが明かりがつくのを今か今かと待っている。二〇〇八年も押し迫った十二月、賑わう大通りから、ふらついた足取りの男が路地へと引きずり込まれるように入っていった。男といっても身なりは学生服で、中学生のようなその”少年”は、一七三センチの身長に色白の肌。女性にも負けないほどの繊細な肌はおそらく母親に似たのだろう。顔のパーツもほとんど母親似だが、目は黄褐色で父親に似ていた。一見穏やかな色をしているが、どこかこの世を儚んでいるようにも見える。黒々とした髪は、自分で切ったのか、後ろの方は長さがバラバラで前髪は口元あたりまで伸び、七対三で分かれている。左耳に揺れる二本の銀色で細長いピアスが特徴的だった。着ている詰襟の学生服は、二の腕あたりが破れていたり、学生服の下に着ている白いTシャツにはところどころ血痕が付いていて、顔と両手には擦り傷や打ち身の痕がいくつも残っている。
「くそ・・・あのヤロー、こっちが一人だとわかったとたんに仲間呼びやがって・・・」
どうやら少年はケンカをしたようで、そこから逃げてきたようだった。少年が呟いた直後、大通りの奥から少年よりも遥かに体格の大きな男が数人、少年の名前を呼んでいた。
「ルカの野郎、どこ行きやがった!?」
「あっちだ、あっちを探せ!」
少年のいる路地の脇を叫びながら走り去っていく。少年の名は桜井琉夏。北海道で生まれ育ったが、琉夏が六歳の時、両親を事故で亡くし、はばたき市に住む従弟の家に引き取られて生活していた。本当の両親のように接してはいるが、やはり未だにどこかなじめないところもある。おとなしい性格も手伝ってなのか、小学校では絶えずいじめられよく兄に助けられていた。”兄”とは言っても同じ年で、琉夏よりも二ヶ月ほど早く生まれただけであったが、引き取られて養子になる際に、早く生れた従弟の子供が”兄”になった。兄は逞しい。体も大きく、力も強かった。そんな兄の背中を見ているうち、自分も強くなりたいと思うようになった。中学に入学してすぐに、二人で空手を習いに行った。最初こそ遠慮がちに兄の後を追っていただけだったが、飲み込みの早い琉夏はあっという間に強くなった。兄には適かったが、それでも道場ではいつも負け知らずの少年になっていた。そんな強い兄弟の噂を聞きつけたのか、その頃からよく他の学校の不良たちに絡まれるようになっていた。”空手はケンカで使うものではない”、道場の師範にそう教えられたが、強くありたい気持ちの方が強かった。気がつけば市内でも有名な悪ガキ兄弟になっていて、学校にも顔を出す程度、高校進学も危ぶまれるほどである。
「行ったか・・・はぁ、腹減った・・・そろそろ家に帰ろ」
雑居ビルの壁にもたれて座り込んだまま、大通りの様子を伺ってみる。どうやらこっちには戻ってこないようだと確信すると、琉夏は痛みの残る足に力を入れて立ち上がった。折れてはいないが、蹴られた衝撃で青い痣になっていた。
「でも、勝ったからいいや」
誰に言うわけでもなく、琉夏が膝の辺りをパン、パン、と払って大通りに出るといきなり目の前から声をかけられた。
「桜井琉夏くんね?」
男に呼び止められることはほぼ毎日で慣れている琉夏も、その艶がかった女性の声に驚いた。が、すぐにいつもの涼やかな表情で答えた。
「そうだけど・・・おばさん誰?」
「あらあら、おばさんなんて失礼な言い方ね。でも・・・顔はお母さんに似て綺麗だわ」
琉夏が”おばさん”と言うその女性。二十代後半ぐらいで、身長は琉夏より少し低く、茶色見がかったロングヘアでゆるいパーマをあてている。はっきりとした二重まぶたに濃く引かれたアイライン。鼻筋も通っていて、口紅はローズ色のグロス。第一印象はモデルか水商売のようである。そんな彼女を見て、琉夏は自分より明らかに年上だと判断した結果、”おばさん”と呼んでいるだけだった。たが、女性が母親のことを口にすると、琉夏の顔はこわばった表情に変わった。
「お母さんのこと・・・知ってるの?」
その表情を見ると、女性は何かを悟ったのか、小さな吐息を漏らした。その吐息は白く染まり、すぐに汚れた繁華街の空へ消えた。
「まあ、ここで立ち話もなんだし、そこのカフェにでも入って話さない?」
女性が手に持っていたサングラスを琉夏が向いている方向とは反対の、オープンテラスがあるカフェに向けた。琉夏は、振り返ってその場所を確認すると何も言わずに女性の後をついていった。

 晴れているせいか、オープンテラスにも何人かの客が座っている。女性同士で買い物に来ているらしき二人組が時折高らかな笑い声を上げ、明らかに恋人同士の男女は向かい合わせで今にもキスをしそうな勢いで顔を近づけている。女性と琉夏はそんなオープンテラスに見向きもせず、カフェの店内へと入った。入り口の傍に立て掛けてあるブラックボードに”Cafe Detente”(カフェ デタントゥ)とかわいらしい文字で書かれ、言葉の意味合いどおり憩いの場所らしく店内は落ち着いた雰囲気のアンティーク調でまとめられいて、天井にはシーリングファンが時間の流れをゆっくりと刻むように回っている。すぐさまウエイトレスが現れ、煙草を吸うかどうかを尋ねると、女性は「ええ」とだけ答え、ウエイトレスは窓側の一番奥へと案内した。その直後、同じウエイトレスが銀のトレイに二人分の水を持ってやってきて、
「いらっしゃいませ。ご注文がお決まりになりましたら、お呼びください」
と、言いながら二つの水が入ったグラスをウエイトレスが琉夏と女性の前に置くと軽くお辞儀をして立ち去った。女性はにこりと微笑みながらテーブルに両腕をつけて琉夏に言う。
「何でも頼んでいいわよ?お姉さん、おごっちゃうし」
女性は手元にあったメニューを琉夏の方へ向ける。透き通るような白い手に派手なネイルチップがまぶしかった。
「じゃあ、ホットケーキとココアがいい」
カフェのメニューとは言っても、その店にはもっと豪華な食事もあった。それなのに、ホットケーキを頼むということはおそらくよほど好きなのだろう、女性はそう思うとウエイトレスを呼び、琉夏の注文に自分のホットコーヒーを付け加えて注文した。
ウエイトレスが注文を確認して二人の前からいなくなると、琉夏は女性に再度聞いた。
「おばさん、なんでお母さんのこと知ってるの?」
その瞳は不信感を抱きつつも、興味を持っているような、そんな色をしていた。さっきのケンカで殴られた頬の痛みは忘れ、ただ、口の端についた血の痕が殴られた証となって残っているだけだった。
「ああ、そう言えば自己紹介がまだだったわね。私は結城理美。生まれも育ちも北海道よ。だからあなたのお母さんのことも、お父さんのことも、よく知ってるわ」