二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
宝生あやめ
宝生あやめ
novelistID. 18276
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

「蒼い太陽」 第一章 目覚める黒翼 (前編)

INDEX|4ページ/5ページ|

次のページ前のページ
 

「そりゃぁ、警察に言って調べてもらいま・・・あ!」
「そういうことだ。・・・やっと出てきた。古い資料だから相当、埋もれてたな。ほら、持ってろ」
単純な東条の答えをわかっていたように、古市は段ボール箱からいくつかのファイルを抜き取ると、振り返って立ち尽くしていた東条に持たせた。持たされたファイルは折り重なって丁度、東条の顎辺りにまで達していた。そのファイルの一番上の表紙を覗き込むように見ると、スクラップブックで『企業関連 No.1』とだけ書かれていた。どうやら連番になっているらしい。
 資料室から出ると二人は再び階段を登り、二階にある刑事課へ戻ってきた。そこには刑事ドラマで見るような、緊張感の走る部屋とは違い、すっきりとした白い壁に白いデスクが並べられ、パソコンに向かってなにやら打ち込んでいる者や、電話をかけたりしている者が数人いるだけの、殺風景な場所だった。
「それで、これからどうするんです?」
ファイルの山を自分のデスクに置くと、東条は古市の指示を待った。古市は置かれたファイルをデスクに広げると、少し、ネクタイを緩めながら椅子に座った。
「ん?このスクラップブックには企業が起こした事故や事件についての記事や、大手企業の不正に関する記事が貼ってある。その中から大内建設に関わりにある記事を見つけるんだよ」
東条が一番手前にあったスクラップブックをパラパラとめくると、そこには全国で起きた企業関連の事件や事故の記事が書かれた新聞の切抜きや、それに携わった警察の行動内容が所狭しと貼られていた。
「えっ!?これを全部・・・ですか?かなりの量ですよ?」
気が遠くなるような気持ちになりながら、東条は隣に座った古市を驚いた表情で見る。すでに古市は最初のスクラップブックに手を伸ばし、隅々まで目を通していた。
「大内建設って言えば国内でも有数のゼネコン会社だ。北は北海道、南は沖縄まで、活動範囲も広い。その中のどこに不正のきっかけや、それに関することが潜んでいるかわからんからな」
やる気に満ちた古市の言葉に、東条は目の前にあるスクラップブックやファイルの山にうんざりした顔をしながら、その中のひとつを手に取った。やはりびっしりと記事が貼り付けられていて大きな見出しのものもあれば、小さくて読むのにも一苦労な記事まである。記事を指で追いながら、東条はふとした疑問をぶつけた。
「・・・というか、こういうのってパソコンで検索したほうが早くないですか?」
確かにそれもそうだ。文明の利器ともいえるパソコンで調べたほうが、効率的であるし、合理的でもある。だが、古市はそのやり方があまり好きではなかった。機械に疎いというのもあるが、肝心な情報がのっていないこともあったりするからだ。時には都合のいい記事だけを掲載している場合もある。
「探したいことが見つからなかったら結局、こういうものを見ることになるだろう?それなら、最初からこっちを見たほうが早い」
その言葉に一瞬、納得したように頷いた東条だったが、やはりどこか合点のいかない顔つきになりつつ、その後は二人で黙々とファイルの山と格闘していた。
 午後五時を過ぎ、三分の一ほどのファイルを調べたが、有力な記事は見つからないままだった。警察署の三階に位置するだけあって、時折窓を叩く風の音が大きくなる。西の空に暖かい色をした太陽が影を潜めようとしていた。課内の人間もまばらになり、残っているのは古市と東条、あとは雑務整理で書類を作成している課員が数人程度いるだけだった。二人が休憩を兼ねて外で夕飯でも、と席を立った時、内戦の電話が鳴った。交換手の婦警からである。
「古市巡査部長、今朝の電話の相手からです。出られますか?」
古市は、もう一度電話の相手からかかってきたら自分へつなげと言っておいたので、交換手が知らせてくれたようだ。古市は「ああ、頼む」と言い、内線から外線への切り替えボタンを押した。その眼は例の”鷹”の目つきに変わり、鋭く突き刺さるような眼光を帯びている。「もしもし」と切り出すと、受話器から、掠れたような中年男性の声が聞こえてきた。
「もしもし」
その声を確認すると、古市は隣にいた東条へ逆探知の合図を送る。東条は自分のデスクにあった内線から交換手へ逆探知の要請を送った。
「今朝、電話をかけてこられた方ですね?」
ゆっくりと、落ち着いた声で古市が言うと相手の男性は同じようにゆっくりと答えた。
「ええ、そうです。調べて・・・いただけてますか?」
その声は少し、不安も入り混じっているような、それでいて願いをこめているような、そんな声色だった。古市は今、調べているが調べてもわからないことを伝えると、男性は安心した声に変わり、一つの情報をもたらした。
「そうですか・・・では、十年前の冬に北海道で起きた交通事故のことを調べてくれませんか。そこからわかることがあるかもしれませんから・・・」
古市はすぐさまその言葉をメモに取り、男性とのやり取りを続けようとした。だが、男性はそれだけを言うと、一方的に電話を切ってしまった。小さな舌打ちをしながらも古市は、メモした紙を勢いよく破り取ると、スクラップブックの上に置いた。間髪いれずに東条のデスクの内線電話が鳴り、東条が出ると相槌だけを打って受話器を置いた。
「逆探、短すぎてできませんでした」
残念がるような口調で言う東条に、「そうか」とだけ言うと古市は再び椅子に腰掛け、いくつかのファイルをめくり、片っ端から除外するものを東条のデスクへ放り投げ、『一九九九年度 No.5』と書かれたスクラップブックを開いたところで、その手が止まった。何ページかめくったところに、色褪せた新聞記事の小さな見出しで『北海道小樽市で交通事故 家族三人死傷』と記載された記事が貼ってあった。地方欄の記事だろう、あまり詳細な内容は書かれていなかった。
「これか・・・?だが、これと大内建設の不正とどういう関係があるっていうんだ・・・?」
古市は記事を凝視しながら、口元に手を当てて考え込んでいる。その記事には『十二月○日午後七時三十分頃、北海道小樽市の県道×号線で乗用車が横転する事故があり、この事故で乗用車に乗っていた小樽市△△町に住む、桜井健二さん(三十三歳)と妻のあけみさん(三十歳)が頭などを強く打ち、病院に搬送されたが間もなく死亡。一緒に乗っていた長男の琉夏くん(六歳)は奇跡的に軽症で助かった。警察の調べによると、スリップした跡があり、桜井さんは雪道でハンドル操作を誤ったものと見ている。』と書かれていた。古市は何度も繰り返し読んでみるが、やはりわからないようだった。
「古市さん・・・どうかしたんですか?この記事に何か・・・?」
独り言をぶつぶつと呟く古市に、東条がいぶかしげな表情で訴えた。東条もその記事を読んでみるが、皆目検討もつかない。すでに空にはくっきりと半月が浮かび上がり、これから長い夜の帳が訪れようとしていた。
「今日はもう遅いな。明日、北海道に行くぞ。桜井健二について調べるんだ」